特定秘密保護法案に反対する学者の会記者会見全文

2013-11-29 vendredi

特定秘密法に反対する学者の会が12月28日13:00から学士会館で開かれました。
集英社の伊藤直樹くんが音声を記録して文字起こしまでしてくれましたものに佐藤学先生が朱を入れてくれた「決定版」が送られてきましたので、改めてご紹介します。
引用などされる場合はこちらの「決定版」からされるようにお願いします。

お手間をかけた伊藤くんとスタッフのみなさんに改めて感謝致します。では、どうぞ。

2013年11月28日特定秘密法に反対する学者の会

佐藤学 :  お忙しい真っ最中だと思いますが、今日はこのように多数、お集まり頂き、ありが■2013年11月28日特定秘密法に反対する学者の会■
佐藤学(学習院大学教授): お忙しい真っ最中だと思いますが、今日はこのように多数、お集まり頂き、ありがとうございました。最初に、ここに並んだ者の自己紹介をさせて頂きたいと思います。私、本日の司会役を務めます学習院大学の佐藤学です。専門は教育学です。
栗林彬 (立教大学名誉教授): 栗林彬です。政治社会学をやっています。
廣渡清吾(専修大学教授): 法律学をやっています,廣渡清吾です。専修大学の法学部です。
杉田敦(法政大学教授): 政治学をやっています,法政大学の杉田です。
久保亨(信州大学教授歴史学): 歴史学をやっています,信州大学の久保と申します。よろしくお願いします。
(*小森陽一氏は途中からのご参加)
佐藤学: 早速ですが、今回の特定秘密保護法案に反対する学者の会の声明を発表いたします。この経緯でございますが、特定機密保護法案に関しては学会関係でも個々の 学会、政治学 歴史学、法学関連の学会、多くの学会がこれまでもアピール出していますけれども、今回の会はそういう学際領域を超えた広い領域の呼びかけに なっていまして、ややスタートは遅れたんですけれども、事態を鑑み緊急に領域を超えた多くの学者達の声を国会に反映させたいということで組織されました。
この会は、1枚目、2枚目をご覧頂ければわかりますように31名の会でございます。この31名、代表はいないのかと問われるんですが、代表はいなくて連名 でとりくんでいます。当初、発起人を作りまして、6名でしょうか。そこからの呼びかけはしましたが、31名の連名の会として発足致しました。これで今日の 記者会見を準備していたのですが、実はですね。もう1つ、お手元に資料をお配りしました。この資料は、この31名の1名の方が、ブログで一昨日、こういう ものに同意したよ、と文面も添えて書いたところ、私も加わりたいということで多くの方々の申し込みが入ってきまして、わずか1日で304名も申し込みが あった。そういう方々から、是非この記者会見の際に、自分達の賛同の声も伝えて欲しいと申されたものです。これこそまさに想定外で、本日はともかくこの 31名だけで記者会見と思っていた所、それだけ大きな反響があります。実は、私のもとにも今朝からずっとメールが届いている状況で、このような動きがある ことを含めて今日ご報告したいと考えているしだいです。本日午前10時の賛同者数は304名、名前は記載の通りです。
 法案は26日に衆議院で強行採決が行われた訳ですが、参議院で慎重審議ならびに良識ある国会運営を求めて緊急に声明を発表をさせて頂きたいと思います。
 本日の進め方ですけれども、私の方から声明文と連名の方々を発表し、今後の予定の概要をご説明したあと、ここに列席しています5名の方々に一言ずつ、 この声明に加わったお気持ち並びにご意見などを伺ったあとで、質疑応答に答えていきたいというふうに考えています。それで、よろしいでしょうか。はい。それでは、お手元の声明文を読み上げます。
(声明文読み上げ *声明文は下記リンク参照)
http://blog.tatsuru.com/2013/11/27_1135.php
  名前については読み上げることを省略させて頂きたいと思います。以上31名の連名でございます。なお、今日記者会見を終えたあと ですけれども、先ほど申し上げましたように、たった1日で、しかもお一人の連名の方ブログで見ただけということで、304名の声が寄せられるという状況がございます。これから12月3日にかけて、お配りしたこちらのブログの方で受け付けを開始し、その声をもう一度集約した上で、第二次発表の記者会見を行う ことを予定しております。なお、今日の声明文に関してはすべての参議院議員と関係の方々に配布する予定です。だいたい私の方の説明は以上ですけれども、よろしいでしょうか。それでは、まず、栗林先生。こちらからお願いします。一言ずつ賛同に至ったご意見をお伺いしたいと思います。
栗林彬:政治学の視点で、この問題を考えてみたんですけど、それはね。新しい3本の矢ですね。つまり1つは、経済統制。例えば原発の推進と 電力の独占とか、それから大企業優先だとか、それから経済成長、大企業優先。そういう風なことですね。それで弱者の切り捨てっていうのが、それはもう経済のレベルで進んでいる。
それから軍事統制の側面があります。それから自衛隊の軍隊かとか集団的自衛権とか、武器輸出三原則の緩和とか、一連の軍事統制です よね。それから最後に情報統制です。これは教科書の検閲、じゃなかった、検定の基準の変更ですよね。政府見解を教科書がとり入れないと、それを教科書とし て公的に認めないというね。そんな所から、教育委員会を行政のもとに置く所とか、それから、かなり露骨な、NHKの民意の人事への介入とかですね。こういうのも広い意味での情報統制ですけれども。こうした新しい三本の矢の要になるのがこの特定機密保護法案何ですね。
これは、この三本の矢を束ねるもの凄く重要な法案だと思っています。それでナチスドイツが政権を取った1933年に、ヒトラーが首相になる訳ですけど、その時に全権委任法という、1933年の3 月23日にですね、全権委任法を通すんですよね。それで、全ての情報と経済とそれから政治をクークで統制して、そこで、例えば教科書の検定なんかにあたる ような焚書事件が実際にあった訳ですし、それから新しい政党禁止、労働組合も禁止、そういうふうなことも出ていく訳ですよね。その時の、要だったのかな、 全権委任法は。この全権委任法はやっぱりまさに、機密保護法なんですよね。つまりこれはなんでもできる訳です。だからね、僕はこれは反対せざるを得ないん です。修正なんてもんじゃないんです。やっぱり廃案にする以外にないというふうに思います。これは、こういう問題が強行採決されたのは、安保の事例で 1960年ですけれども、それに次ぐ大きな出来事だと思いますね。ただ、60年と違うのは、野党が翼賛化しているという事ですね。非常に大きな違いです。 ですから市民サイドとしては、市民サイドが頑張ってやるしかないと思います。メディアも協力して欲しいし、本当に市民サイドに立った闘いというのが行われるべきだと思う。
しかも衆院を法案が通っちゃったわけですけれども、だけど、これでお終いじゃないと思うんですね。この闘いというのが、事前闘争から始 まっているんだけれども、この事前の闘争がちょっと市民サイドが立ち遅れているんだという認識ありますね。それからまさに今やっているのが、渦中闘争です けれども、これが仮に法案が全部通っちゃっても、事後闘争という形になります。つまり、事前闘争、渦中闘争、事後闘争、全てを戦い抜く形で、そういう形で、市民サイドは頑張らないといけないなと思います。これは反原発の運動と問題は重なっているということが言えると思います。
廣渡清吾: 私は法律学の分野なので、多少法案について話したいと思うんですけれども、これは全体として、日本国憲法のもとでの統治機構としての バランスを全く変えてしまうという決定的な法案じゃないかなと思いますね。
今から議論をするうちにわかるんですけれども、行政機関の長が、一応時効は掲げられていますけれども、不特定な対象の事項について機密と特定する。そうするとその秘密を漏らしたり、その秘密を得ようとしたりすることが罰せられる。いいですか。どれが特定秘密かわからない訳です。どれが特定秘密かわからない。それをチェックするシステムは全くないですよね、そして行政機関の長です。省の大臣が自分でできる。内閣総理大臣がチェック役を果たすなんて言ってますけども、もともとおかしいですよね。内閣総理大臣が任命した大臣について、わざわざここでチェック役を果たす。もともとチェック役を果たすのが、ですね。そういうのが全然見えないなって。
それで、修正案も含めて個別に言いますと、皆 さんこれでいおかしいなっていう所があるんですけど、いいですか。有効期間を5年と定めるとなっていますよね。更新ができて、最初は議案は30年、30年 を超える時には内閣の決定がいるというふうにしました。修正で60年までとして、ただし、60年を超えても7つの事項については、例外的に60年を超えて も特定機密として存続させることができる、としましたね。だけど皆さん、よくご覧になると、1,2,3,4,5,6,7番目は、1~6までは一応時効は書 かれているんですけど、7番目はそういう時効に関する情報に準ずるもので、政令で定める重要な情報としている。これは特定機密を60年を超えても政令で定めることが定めることができる、ということは、政令で犯罪を造る事ができるということですよね。これは憲法31条に明確に違反していると言えるんですけれども、これが修正で入った。そしてこの修正で行った。これはどういうふうに考えていいかわからないんですけど、誰も言っていませんが。有効期間5年で定められた特定機密、特定された秘密を漏らした場合に、10年以下の懲役ですよ。どういう事が起こるかっていうと、秘密によっては5年で、これは秘密でも何でもなくなるっていう事は起こりうるでしょう。そういう秘密を漏らしたということで10年の懲役ですよ。おかしいと思いませんか。その秘密が可にされても、 この人はどうなるんですか。そういう事はどうなるんだっていう疑問を起こさせるような法律ですよね。
それからもっというと、2001年に自衛隊法が改正されて、防衛機密という規定を置きました。一般に、自衛隊法は公務員と同じように、守秘義務は1年以下の懲役となっていますけれども、それに加えた。これは 5年以下の懲役です。今回は、その防衛機密として自衛隊法が変えた時効を、それをそのまま、この特定機密法案に載せています。そして10年です。2001年から現在までの間に、いわゆる防衛秘密といわれるものを保護する、その必要性が、懲役5年からどうして10年で、10年に上がるんですか。その間、どう いう変化があったんですか。こういうことを何も説明されていませんよね。もし5年から10年に上げるとすると、5年だと、どんどんどんどん秘密が漏れた。 防衛秘密が漏れた。だから防衛秘密が維持できない。これだったらわかりますよ。だけどそんなことは何もないんです。
だからこれは明らかに、実際に必要のあることに対応しようとするのではなくて、政府が何か新しい国家を創ろうとしているふうにしか考えられない。それが声明がいっている秘密国家であり、軍事国家だというふうに思いますね。というふうにいっぱい提案の負の方の問題があって、国民の観点からいくともちろん、知る権利を守るためにもこの法案をつぶすのです。普通に考えると非常にバランスの悪い、日本国憲法の法体系の中では非常にバランスの悪い訳ですけれども。自衛隊法で敵前逃走でも7年の刑です。今回、防衛秘密を5年から10年にして、その保護の範囲を外交秘密、テロ方針、それから、もう一つ、テロリズム。ここまで広げた。これは、法律学者のいうところの立法事項を変えている。なぜこういう法律を作ることが、国民の権利を守ることに繋がるんだ。全然ダメです、と。安倍さんが、この提案は、国民の安全を守るためだと言いましたけれども、国民は自分たちの安全が何であるかを自分たちの目で見て、自分たちの頭で考える。それが知る権利です。知る権利を蔑ろにして国民の安全を守る事なんて絶対にできません。安倍さんは詭弁(きべん)です。
杉田敦: 政治学の杉田でございます。この秘密の問題というものは非常に難しい問題で、この私たちのアピールでもですね。外交・安全保障等をつくるに関して、短期的・限定的に一定の秘密が存在することを私たちは必ずしも否定しません、と綴られている訳です。ある意味この手の反対運動とかに対して、外交秘密を認めないのか、というふうな批判があって、そういう事ではないですね。それは全部、即時にあらゆる外交等をガラス張りにするっていうことは 当然私たちも認識しているんですが、これは先進諸国の前例がすべて十分とは言えないものですので、基本的に一定の年月がたてば公開して、その時点で当時の 正当時点が決定した当時の政府の判断がどうだったかを少なくとも事務的に民主的に判断する余地を残す。それによってあとで検証されるから、無責任な秘密指定とか隠蔽とかはできないようにするというのが普通のやり方ですよね。これは、この点について、この法案が最初に提出された時点では全くその、無限定に近 い形で出されてきたわけです。
それからもう一つは、時間的にあとに検証できる担保。もう一つは、先ほどの、今も2人の方がお話になったようなことでして、 行政府の権利とは、これは歴史的に見ると肥大してきたわけです。行政権の優位というのは歴史的にどうしても続いてきた。つまり憲法が立法権を国政最高機関としつつも、現実には行政というのは、国を守っていますから、ここで権力が大きくなる傾向があるわけです。ですからその行政権の権力に対してはさまざまな チェックをするというのは、少なくとも統治のシステムとして当然のことである訳ですね。ところが今回この法案においては、先ほどからお話があるように、行政府が法律を設定するに際して、ノーチェックの形で出されてきた。そして現在でも行政府の長である首相がチェックするなどといった、そのチェックという概念を理解していないというような対応が働いているわけです。これについて、チェック機関としては普通考えれば、ひとつは立法府の中に、立法権力の中に何らかのチェック機関を設ける。それから司法の部分、裁判所の中に何らかのチェック機関を設ける。あるいは、例えばアメリカ国立公文書館とかですね。これはアメリカでやっているんですけれども、第三者機関のようなものにつなげるか、少なくともそういうふうなシステムを用意するのが世界的に見て当たり前だと思うんですよね。もちろんそういうものを設けたからといって、実際には骨抜きになるっていうのはもちろん、世の中の常とは思いますけれども、そうは言いながらもやはり、全然ないというのとは違うので。ところがそういう配慮が、配慮というか当然のシステムをつくらないままこれを出してきたということが、非常になんて言いますかね。現在の政府・与党の、あるいは官僚の側かもしれませんが、思い上が利なのか、単に能力がないのかはわかりませんけれども、こういう問題 について、現在のような、私たちのような成熟した社会で、そういう、なんて言いますか、粗雑な形で出せば大きな反対しか寄せられないということが理解でき ない。そういう極めて荒っぽい、ですね、やり方であるということを非常に危惧を持つわけですね。
一応、逆に言えば、もう少し、第三者機関とか、時間ととも に開示されるとか、そういうふうな条項を入れた形で、上手に出されたら、逆に私どもも反対しづらい面があるんですけれども、そういう配慮もせずにこれを出してきた。今現在、一部修正してますけれども、そういう形でやることによって、いったい最初にどういう意図があったのかということを非常に疑わせる。つまり、いろいろなことを言いながらも、極力ですね、この際、さらに行政府に権力を集中させて、いわば、ほかの部分に、発言権を奪うような体制を一挙につくろ うとしたのではないか。首相等が国会で説明しているような外国との関係上、外国からその秘密をもらう関係で公務員に規制するだけではなくて、ほかの意図は 全くありませんという説明を。それに対して、そもそも根本的な疑問を持つように、現在の立法を(…)ということで、これはやはり根本から考え直して、拙速な成立というのは必要ないと思うので、もう位置から、そもそも、なんのために必要であり、どういうことが最低限、こういう秘密、国家 秘密を扱うについてはどういうが必要なのかということを根本から議論し直していくしかないのではないかと思います。以上です。
久保亨: 歴史学の方をやっている久保といいます。今、ちょっと文章を、今まで歴史学者がどういうことを声明してきたのかという事で、文章をまとめて参りましたので、こちらでお回ししますから、もし足りなければ、あとでメールアドレスなどをいただけばお送りしますので、ちょっと部数が足りなくなるかもしれません。歴史学の立場から3点を申し上げたいと思います。
まず、経緯を申し上げますと、ここに、ご覧になっていただければすぐご理解いただけ ると思いますけれども。10月30日に歴史学関係者で緊急声明を出しました。これは非常に重要な問題だということで、学者・研究者の中で早いほうの反応 だったと思います。11月22日に緊急声明、第二次のも出しました。これは、歴史学の学会の中で比較的、機動的に動ける学会が動いたんですけど、日本の主だった学会が全部参加している日本歴史学協会という団体が11月19日に緊急声明を出しております。これは2枚目の所の上にあるものです。それから、その 4日前に日本アーカイブズ学会というこの、公文書の専門化、文書館などの管理をやっている専門家が集まっている、やはり数百人の大きな学会があります。日 本を代表する学会です。ここも意見表明という形で、より慎重論を出しております。こういうふうな形で、歴史学、こうした文書を扱う関係者の間では非常に反対が広がってきているということが経緯であります。  
お話ししたい3点というのはですね、第一に、今までにも文書は決して公開されていないということなんです。今公開されているものを特定秘密で保護しようというんじゃないんです。今現に公開が全然できていないという状態なんです世ね。その問題をまず言わなければいけないと思っています。
古く言えば満州事変の時に、例えば関東軍の謀略で起きたということを外務省は2,3日後には公電でつかんでいるんですね。当時いた吉田茂たち、外交官の報告によって。しかしそれがまさに特定秘密でそういう名前を使いませんけれども、国家機密だからということで明らかにされな かったために長い戦争をやってしまったわけですね、日本は。そして戦後に関しても、例えばアメリカと日本との1950年代、60年代、70年代の向上も、 すべてアメリカの文書を手掛かりにして研究が進む、情報が暴露されるということはご承知の通りです。実は台湾と日本との関係もそうです。私は中国の(…)台湾との関係については注意していますけれども、自分自身でも外交史料館に行って、1950年代、60年代の文書を調べていますけれども、 本当に歯がゆい状態なんですよね。非常に公開が遅れています。これがまず、日本の現状だということを考えていただきたい。これが第一の点です。その公開が遅れているということが国民の生命、国の将来を危なくするんですね。国益という言葉を使いたければ国益と言ってもいい。まさに国民と国 の利益を損なうのが、秘密を守ってしまう、秘密を隠してしまうことだと思っています。それが第一の問題です。
それから第二の点はですね、今申し上げた事ですが、国際的に非常に立ち遅れているということなんです、日本の公文書管理が。アメリカのナショナルアーカイブズという公文書館は1000人以上の職員を抱えています。イギリスのナショナルアーカイブズもやはり700人くらいの職員を抱えています。それから、中国など、ほかの所でも数百人の職員を抱えてい るのは、いくらでもある。日本の国立公文書館という、すぐそこにあるところですね。竹橋にある、あそこの公文書館の職員は50人いかないはずです。桁違いなんですね。こんなに公文書の管理が遅れている国を全くいったい何をやろうとしてるんだということでですね。歴史学者や公文書関係の人たちのたいへんな危機感も背景になっています。これが第二の点です。
それから、第三の点ですね。この状況を変える非常に重要な手がかりがこの21世紀になって進み出した。それが情報公開法と、それから公文書管理法。二つの法律です。二つとも非常にまだ不十分な点があるということを我々は指摘しています。不十分だけれども、ようやく、そうした国民の権利を大事にする方向に手がかりの法律ができてきた訳です。その状況に慌てふためいて、逆行する動きが出てきたというのが今度の問題 だというように私たちは考えています。ですから、日本アーカイブズ学会が言っているように、それは私たちの第二の緊急声明でも書いたんですが、公文書管理法という2011年の法律ですね。これに基づいて、きちんとした形で防衛秘密・外交秘密についてもこういう形で扱うという形でルールを決めて公開の体制を作っていくことが王道というか、正式の方向であって、その手がかりができているのになぜ別の法律で、とんでもない体制をつくろうとしているんだ、と。これが一番の批判点になります、以上です。
小森陽一 (東京大学教授): 文学の小森陽一と申します。文学に関わっている多くの書き手が結集している日本ペンクラブは、繰り返し、この特定機密保護法の危険性 を訴え、そして何度も声明を出しています。また文学者が多く呼びかけ人となった、私は九条の会の事務局長をさせていただいていますが、九条の会の呼びかけ人は10月7日に緊急の声明を出して、この特定機密保護法の危険性が解釈懐疑に明確に結びつくものだということを指摘しました。
まずやっぱり憲法の問題から言ってそこの狙いをしっかりと改めて確認する必要があると思います。すでに国家安全保障会議法NSC法は、参議院を通過してしまいました。ここは首相と、内閣官房長官と、外務大臣と防衛大臣。そのわずかな閣僚だけでですね、外交や安全保障を巡る決定をしていくということになるわけですが、当然アメリカ と情報を共有した場合に、それを全部秘密にしなければならないということで、この特定国家秘密保護法という。私はこれは保護というのは、全く欺瞞(ぎま ん)的な言葉だと思います。これは国家秘密隠蔽法以外の何者でもないわけで、そのことをはっきりとメディアは報道していただきたいというふうに思います。 これがつくられると、つまり行政権力で、先ほど行政権力だけが特化されて、強化されていくという話がありましたが、行政権力だけで、つまり憲法に違反する とされてきたさまざまな決定をしてもそれが秘密のまま、いくっていうことですね。
ですから国家安全保障会議ができて、そして秘密保護法が通ってしまえばですね。閣議決定だけで、今まで海外で許されていなかった自衛隊の武力行使も決めて、それが行われて、そのまま、秘密のまますべて事後的にしか国民には知らされない。となると、私たち主権者である国民は、まさに情報が開示されて、いったい政府が行政権力や、司法権力や、立法権力が何をしようとしているのか。それが憲法に違反していないかどうかということを判断して、まさに主権者としての力を行使していくわけですね。それが一切踏みにじられるというのが今 回の国家秘密保護法だと思います。 
ですから、国家秘密隠蔽法は主権者である国民のあり方を、まさに殺傷してしまう。国民の主権と視点を根本から奪う、そういう法律だというふうに私は判断しています。だからこそ、まさにこの、大日本帝国憲法下と治安維持法体制下において、この国の言論界というのは自発的に治安維持法に隷従していく方向で、伏せ字その他をやっていたんですね。そういう国と社会にしていいのだろうか。私は最後まで反対していきたいと思います。以上です。
佐藤学:少し長めに時間をとって説明させていただきました。さまざまな学問分野がありますから、それぞれの立場からどのような関わりで許せない法律であるのかという見解をしていただいたということです。
私の専門は教育学ですが、戦前の教育がどのように破壊されていったかという経緯を知っているものですから。この特定機密保護法案が実際に施行される状況で、まず想定されるのは集団的自衛権の行使ですよね。そうなったときに、誰もがその戦争突入への決定を行い、どう決定されたのかが秘密に特定されるようなことが許されていいかどうか。これが一番懸念されることでして、今回の衆議院のあの強制の採決 の状況、世論調査等々を見ても、圧倒的に反対者の数が多いにもかかわらず、審議もほとんどなしで強行採決するという経緯そのものが、この法律の本質を表している気がいたします。きちんと国民の知る権利が守られるならば、この法律の制定自体がそのプロセスを踏むべきであって、民主主義を蹂躙(じゅうりん)する形で法律が今 まさに制定されようとしていることに対して憤りと危惧を覚えずにはいられません。ほとんどの人々が「この国はいったいどうなるんだろう」という不安を抱いている。それが率直な市民が抱いている恐怖です。その恐れを誘発している法案であるところにも、この法案の本質があると理解しています。それでは、あと残された時間、24分少々ですが、順次ご質問等々いただければと思います。

■質疑応答■
東京新聞: 東京新聞の***と申しますが、(…)この秘密保護法案の(…)が、経緯があって、呼びかけがあってという。もうちょっと詳しく、いつ頃、どういう集まりがあって、これができたという。
佐藤学: だいたいいつだっけ。4日か5日くらい間です。1週間たってない。急遽この30人。たぶん1週間、ほぼ1週間。
東京新聞:かなり分野も幅広く集まってという形ですが、これはどういう関係で。
佐藤学: 呼びかけ人。私もその一人だったんですけれども、最初4,5人で協議されまして。具体的な名前を申し上げていいと思うんですけれど も、発起人として、総合研究大学院の池内先生。現在事務局をお願いしている千葉大学の小沢先生、それから聖学院大学の姜先生、法政大学の杉田先生、東京大 学の高橋哲哉先生、それから廣渡先生、そして私の6人がそれぞれ呼びかけ人という形で、それぞれどういう方に呼びかけようと相談し合いながら、呼びかけていった次第です。
呼びかけたほとんどの方に積極的に賛同していただいたというのがこのリストでして、ご覧いただけばわかりますように、ノーベル賞の受賞者の益川先生、白川先生をはじめ、自然科学系の方々にも参加していただいています。このようにさまざまな領域の方々に、賛同いただいたと言うことです。先ほ ど申し上げましたように、この段階のこの発表で終えようと思っていたんですけれども、さらに皆さんの要望が強いので第二次発表まで存続をしていきたいと思 います。
***:先ほど、戦前の教育がどう破壊されていったかという視点の対策として、というお話でしたけれども、戦前の教育の破壊のされ方と今回の経緯で重なるところ、あるいは違うところを。
佐藤学:戦前の教育の破壊とは、教育によって破壊されたと言うよりも軍国主義体制がつくられる事によって、多大な破壊を教育が被ったということです。戦争への突き進む過程で情報や言論が統制され、教師の側から見ると、知らない間にどんどん全体主義化が進んでいた。戦争に突入した時も、教師に は訳が分からない状態で突入していったというのが実態だと思うんです。
我々が戦後に教訓として得たことは、いち早く異常な動きに対してきちんと声を上げて いく。あるいは戦争を二度と起こさないという社会や国家の仕組みを作っていく事だったし、それが戦後の民主主義教育の出発点だった。だから現在の憲法改正 の動きに対して私,教育関係者は、ほとんどの人々が、いったいこの国はどうなるのかと危惧している。昨日も横浜で教師達200名との研究会がありましたけ ど、みんな講演後に私のところに押し寄せてきて、講演内容とは関係がないのですが、「この国はどうなるんでしょう」と、その不安を訴えていました。
***:ここに示されている発想ですが、政府が何でもできるんだっていうことですよね。政府が何でもできるんだっていうか、政府がなんでも しなければいけないっていうか。安倍さんが私の政府っていうのか、私の政府。私の政府よりも国民の政府でしょうっていうんだけど。なんて言うかなぁ。こう、とにかく政府が国民のためにやるんですから、政府に全部お任せくださいっていう話になっているんです。ですから教科書も、教育基本法の全編を(…)、チェックしますよ。教育委員会も、教育委員会から政府にしますよというふうに、委譲しますよと、みんな同じ発想だと思うんです。その発想自体が根本的に日本国憲法の民主主義の理念と相反しているということをなぜ、国会議員がわからないのか。これはおかしいですよ。国会は見せてもらうんですよ、特定秘密は。裁判所も、見せてもらうって書いてあるんです。見せてあげるって書いてある。実際に訴訟になったときに、特定秘密漏洩罪で訴訟になったときに、どういう秘密が漏洩されたんですかっていうことを裁判所でちゃんと審議できるかどうかっていう。昨日も元最高裁の人がその辺を危惧していましたけどね。そうなんじゃないかと。根本的にあそこの所は問題です。それはすべての、安倍政権がやろうとしているすべての課題に、関わる。みんな心配しています。
***:それだけ先生方がそれを、しかも呼びかけからわずか一週間で集まって発足に至ったというのは、それだけ意識の表れということだと思 うんですが、安保改定以来という話もありましたけれども、戦後史においての位置づけ、特定機密法案の危険性というか、認識に対する危険性というのは、先生方がそれだけ、インパクトでありここ数十年で見ても、かなり重要、というふうに考えてよろしいですか。
***: 問題の性格から見て、安保以来だと思いますし、それから戦後の憲法体制といいますかね。憲法の民主主義の現状からいっても、特に国民の知る権利ですね。基本的人権の問題。それから平和主義の問題から考えてもこれ以上ないくらいの重要な案件だと思います。
杉田敦:先ほどもですね、こちらの先生から、現在でも秘密が全く公開されていない秘密というか、情報が公開されていないとのお話がありまし たけれども、今回、国会での審議の過程でも、あるいはその場の議論の中でも、西山事件の問題が議論されていまして、西山事件の判決において、正当な行為、 取材行為とか正当行為であれば、処罰されない、と。西山さんの場合には、正当でなかったから処罰されるというのが裁判所の判決理由だった訳ですが、その正当行為であれば処罰されないという部分を、森大臣等執行部で引用して、だから大丈夫なんですというそちらの方向で西山事件を引用されている訳なんですが、 しかし西山事件に関してすでに民主党政権時に、一定の歴史家等による検証がされて、またアメリカ等のまさに公開資料から、日米に密約があったことはほぼ明らかなんですが、にもかかわらず現在の自民党政府、自民党等は依然として認めていないわけです。彼らのかつて政府がかつて密約をやったという事を依然として認めていない。ここまで外国の資料等からも判明している事実であっても認めないような人々がですね。さらを秘密を強化するような、法制度を作っていくこ とに対して人々が危惧を持っているのは当たり前の事ですね。
まずはこれまでの、従来のいわゆる密約であるとかに関して、きちんとした検証を自分たちがやっ てですね。国家機密に関わるような問題にも、一定の時間がたてば当然公開するんだという風なことを担保した上で、こういう問題に手をつけるということでな ければ、当然信頼を得られないことがあると思います。
***: やはり転換点にあるというのは、自民党が改憲をして、皆さんご覧になったと思いますけれども、我々法律家から見るとジョークではありませんけれどね。現日本国憲法と自民党の改憲案を英文に翻訳してアメリカの学生に見せてね、今日本で新しい憲法を作ろうとしているんだけれど、どっちの憲法が新しい憲法っていったら、日本国憲法。これはジョークじゃないんですよね。まさに反動的な憲法案になっていると思いますけれども、今回のやつは3点セットでしょう。NSAつまり、日本版の保障会議をつくった。これで完全に機密のデータは管理しますよ。
そのための管理のシステムをここで作りますよ。その先は集団的自衛権を憲法改正、これを変更して。これが問題なんですよ。憲法改正を変更してって言うことは、これまで日本の政治家は曲がりなりにも日本国憲法の下で、そのコントロールが利いていたんですけれども、そのコントロールをは外すということです。さっきいったように自衛隊法で隊員が職務に違反した。つまり普通の軍隊でいえば、敵前逃走したときでも7年ですよ。それを今度は10年。これはね、軍隊を特別扱いにする。そういう国家にするといいという 考えがにじみ出ている。それが私には転換だと思います。
安倍さんは転換を目指して第一次安倍政権を組織したでしょう。戦後レジデンス、あるいは日本国憲法 のシステムとして明らかにするだからみんな心配している。日本国憲法の下で戦後66年みんなやってきたわけでしょう。どういうふうに問題があるかっていわない。問題があるかっていうんじゃなくて、こういう日本国憲法のあり方ではいけないと思うって。イデオロギーですよ。どこに日本社会が困った問題を抱えて いるんですか。こういう法律ができないことによって、それを説明できない。あとは何が残っているかというと、核武装と序令性だけだと思うんですよね。たぶんこの二つを国家秘密保護法で隠したいんでしょうね。その意思決定をやっていくんでしょうね。そのことがあとで検証できないように。つまり行政府がこういう文章を破棄してしまう。だからこれが何年たっても歴史的な検証になっていかない。だからむしろ文書の公開の方を法制化していくということがさき。そういう中で行政府が文書を破棄するということに対して罰則規定を設けることが先だと思うんですよね。
***: この法案の狙いは国民の言論というか、自らいわなくする。それが目的だからむしろその言わなきゃいけないんだという意見があったので すが、学者の皆さんとしては、阻止するんですが、そういう長い目で見て国民の運動に対してどういうアドバイスというか、どういう力点というか、何かあったら教えていただきたいと思います。
小森陽一: 何としても廃案にするために全力を尽くすつもりですけれども,もし仮にこれが参議院で通ってしまった場合には,その日からその法律を廃棄 するための闘いになると思います。そして,そこで私達が発言していくことが,政府がこの法律によって何を秘密にしていくのかということを暴きだしていくこ とになる。その意味では,10年の懲役を覚悟した命がけの闘いになりますが,それを今の憲法の下でやりぬくのが主権者だろうと私は思います。
久保亨: 歴史学の久保です。私ども歴史学者の第2次緊急声明の最後に書いておいたのですが,現在必要なことは「公文書管理法の趣旨にのっとって行政文書の適 切な管理のための方策を とること」であり、米国の「国立公文書館記録管理庁」が持っているような文書管理全般に関する指導・監督権限を国立公文書館に付与すること、その権限に見 合った規模に国立公文書館を拡充すること,そしてそれを支える文書管理の専門的人材を計画的に養成・配置することである」この重要性を,日本国民の意識の中で広げていくことが基本的には非常に重要だと思っております。それに支えられた公文書館行政をきちんと作らないとだめです。率直にいって,図書館と博物館は(…)。文書館を見落としてきた。近代,現代には文書館がないのです。それが結局,文書に関する国民全体の意識を低くしてきたと私は感じています。ワシントンでもロンドンでもいってみれば,普通の市民が文書館を使っているのです。日本の文書館は本当に寂しい状態です。普通の市民が自分たちの情報を確認するために文書館を利用するという,市民の意識やモラルが出来ていないのです。だから隠してきたのです。ようやく公開しようという公文書管理法が出来たときに,慌ててそれを逆戻りさせようとしていると,私はそのように考えております。長期的には,公文書管理法に基づき,権限を持ち,事前事後なしに,(…)に立ち入って,きちんと文書を保管する体制を作って,どんどん摘発できるという権限を持っているのがこの官庁なのです。これが日本にないのです。これがあれば,あらゆるところで動けるはずなのです。これがないから問題なのです。このことを,もっとメディアの方達に も考えて頂きたいと思っています。
朝日新聞:杉田先生にお伺いします。先生方の問題の意識をとても共有するのですが,一方でこの前の衆議院の採決を 見ますと,仮に維新が賛成していたら,衆議院の8割の賛成ということになったと思います。この議員は去年の12月に主権者である国民が選んだばかりです。 この状況をどのように考えれば宜しいのでしょうか。
杉田敦: 今回,いわゆる第三局の動き方がよく分かりません。これは,いわゆる政局的というか,政治方法的な感覚からいえば,与党に入りたがっているというか,多数 派に入って何らかの規制作りをしたいというような。逆にいうと第三局が急激に成長することは阻まれたので,くっついていこうという政策に転換したのか分かりませんけれども,そういう政局的なことはとにかくとして,世論が非常に警戒感を持っている,外国のメディアも含めて(…)大変なこと になると思います。一ついいこととしては,自民党の中からも疑問を持つ人が出てきているということです。報道されていますよね。先ほどの質問とも少し絡めて申し上げますと,先ほど申し上げた西山事件に関わって日米に密約が出た時も,民主党政権が公したときにも,国民の反発が非常に小さかったので,危惧したわけなのです。自分たちが自民党政権に騙されたわけですよね。しかし,それに対して怒るということが十分に出てこない。
それからイラク戦争への参戦における,大量破壊兵器に関しても,あれはなかったということで,米国でもかなりかなり問題になりましたし,イギリスではブレア政権が倒れるまでに至った。日本では,小泉政権がそういった判断をしたことについて,批判が非常に小さい。これは国民が,自分たちに対して情報が開示されないということの民主的な問題点です。やはりメディアがそこの所をはっきりしていただいて,まさにそれが民主主義の本質なのだということをより謗法して頂きたいし,今回この余りにも粗雑な立法が出て,国民の危惧はかなり出てきたのではないかと思っていますけれどね。政治家の方々には見誤らないで頂きたいと思います。
佐藤学:そろそろ時間なのですが,よろしいでしょうか。なおですね,今後、こちらの情報については。そこに事務局のアドレス等がございますの で,ご質問頂ければと思います。12月3日夕刻になろうと思いますが,第二次の賛同人の発表と記者会見を行います。また正確な時刻と場所についてはお伝え致します。では,今日はどうもありがとうございました。
(終わり)