New York Times の特定秘密保護法案衆院通過についての記事

2013-11-30 samedi

New YorkTimes は11月29日に「秘密保護法案によって日本は戦後の平和主義から離脱するのか」という記事を掲載しました。さきほどツイッターに紹介しましたけれど、アメリカでの論調を知って欲しいので、ここに訳出しておきました。やや荒っぽい翻訳ですけれど、新幹線車内での仕事なので、ご容赦ください。
では。どぞ。

街頭でのデモや主要紙の批判的社説を一蹴して、日本の保守派の首相安倍晋三は秘密保護法を通過させることによって、彼の国の戦後の平和主義を逆転させることをめざす一連の法整備の第一歩を進めた。
安倍首相によれば、国家機密をより厳正に管理することがアメリカとの国家機密にかかわる軍事情報の共有のためには必要であると語っている。火曜日に衆院を通過したこの法案は近日中に参院でも採択される見通しであり、これは安倍氏の、日本を彼の言うところの「ふつうの国」に変えるためのステップの一つである。具体的には自衛力行使のための制約を減らし、地域においてより大きな役割を演じることをめざしている。
アメリカ型の「国家安全会議」(NSC)の創設とあいまって、この法案採決は危機における総理大臣の権限を強化することになる。
安倍氏は国家機密の厳正な管理は日本の情報保護上の穴を塞ぐために要請されたものであり、なによりもアメリカから軍事機密を提供してもらうことをめざしていると述べている。中国の国力の増大と独善的な態度硬化を前にして、安倍氏は日本をアメリカの「羽根の生えそろった」同盟国たらしめたいと願っている。
しかし、秘密保護法案はただちに反対派の集中攻撃を受けることになった。ニュースメディアと大学関係者の多くは、この法案によって強力な官僚機構がこれまで以上に国家機密指定についての広範囲な裁量権を持つようになり、もともと情報開示に消極的なことで知られている日本政府がますます情報公開を回避するようになることを恐れている。
それ以外にも多くの人々がこの法律が政府による権力の濫用をもたらすことに警告を発しており、言論の自由を抑圧することによって結果的に軍部が日本を第二次世界大戦にひきずり込むことを可能にした戦前の強権的な諸法律と比定して論じるものさえいる。
東京の上智大学のメディア法の教授である田島泰彦はこう語る。
「我が国の近代史を見ればわかるとおり、日本には言論の自由の強力な伝統が存在しません。ですから、官僚たちに彼らが望むものを自由に国家機密に指定する権限を与えてしまえば、私たちの国は中国や北朝鮮と変わらないものになるでしょう。」
法案の最大の難点は秘密の定義が曖昧かつ広範なことである。法案によると、政府諸機関の長は、外交、国防、対テロのような国家の安全にかかわる重要な情報については非公開指定をなす権限を持つ。これらの秘密を漏洩したものは10年以下の懲役刑を受ける。この量刑は現行法よりも重い。
秘密保護法は今週可決されたNSCの創設を決めた法律と一体のものとして提案された。
アナリストたちによれば、この「双子の制度」は安倍氏がめざしている一連の法律整備の第一歩である。安倍氏の長期計画の最終目的は日本の反戦的な憲法を改訂し、専守防衛型国家を高度の戦闘力を備えた国家に作り替えることにあるのだが、この点についてはいまだ日本国内では合意形成がなされていない。
「この法律的な枠組みは国家安全戦略の司令部となる新たなNSCが適切に機能するためには必須のものである」と先月の読賣新聞(安倍氏が総裁である自由民主党の代弁者である保守系紙)の社説は述べている。
衆参両院において多数派を形成している安倍氏は、日本の長きにわたる政治的麻痺状態を終らせることを約束し、言葉通り法案をわずか3週間で衆院通過させ、参院に送った。
しかし、このスピードは反対派には圧倒的な力で押しつぶされたという印象を残した。結果的に、この手続きそのものが秘密保護法案が日本のデモクラシーへ脅威になるのではないかという恐れをもたらし、日本でこれまで守られてきた、変革についての合意形成の伝統から逸脱するものだという不満を醸成している。
「衣の下に鎧が見えた」と最大野党である民主党代表の海江田万里は火曜の衆院採決後に語った。
もっとも強い懸念の声は福島第一原発の現場近くの住人たちから上がっている。浪江町の馬場町長は月曜日の公聴会(この法案についてのただ一度だけの公聴会)の席で、2年前の事故当時、放射性物質の流出の方向予測についての政府の情報隠蔽のせいで、彼の町の住民たちが知らぬままに汚染地に逃げ込んでしまったことを指摘した。さらに法律は政府の危機的状況における政府の情報隠蔽体質を強化することになるだろうと警告した。「必要なのはさらなる情報開示であって、隠蔽ではない」と町長は語った。
すでに多くの日本の第一線の作家、ジャーナリスト、学者たちが法案に対して強く反対しており、少なくとも官僚機構が秘密情報指定を恣意的に拡大することについてのより強力なチェック確約を求めている。
だが、法律は情報の秘密指定の適切性を点検する機構の設立を定めていないし、そもそも日本にはアメリカのような他の民主国家にあるような情報に関するしっかりした法律が整備されていない。
さらに、この法律では、情報を漏洩した公務員のみならず、それを受け取ったジャーナリストや研究者も処罰の対象となる。国会議員についても、指定秘密を開示請求できるかどうか明確な規定がない。
先月の社説で、朝日新聞(読賣と並ぶ日本の日刊紙)はこの法律は国家機密の保持という要請には応えるかもしれないが、問題点がありすぎて「穴だらけ」であり、有権者を暗闇に置き去りにするものであると論じた。
「この法律は政府に情報の独占権を賦与するものである」と社説は書いている。「そして、国民の知る権利、調査する権利、さらには報道の自由に甚だしい制限を加えるものである。」
今週、議会において安倍氏は、法案は機密保持を強化するために必要なもので、国防に関する秘密漏洩や管理不全についての度重なるスキャンダルのあとに日本に対してアメリカから要請されたものであるという説明を行った。
専門家の中には法案を批判する人たちは読み違えていると述べるものもいる。現に安倍氏は野党に対して特定秘密をモニターするエージェンシーの創設を求めているではないかというのだが、そのような文言は法案にはない。法案支持者たちはまた法律が適用されるのは軍事機密やテロリストからの携帯メッセージの盗聴内容のような重要なものに限定されるとも言っている。
「この法律によって日本の秘密マネージメントのレベルはアメリカ並みになるものと思う」と東京大学教授で情報法の長谷部恭男は語る。
だが、今の場合はまさにアメリカの模倣をすることこそが重要なのではあるまいか。法案批判者の多くは、アメリカや他の国々がそれぞれの政府の秘密保持を開示する方向に向かっているときに、それに逆行する法律を通すべきではないと述べているからである。
「スノーデンによる機密情報の暴露はアメリカ人に再考を促しました」と田島教授はNSAの契約者であったエドワード・J・スノーデンに言及した。「にもかかわらず、日本はその逆の方向に走ろうとしている。」