嗜好品について

2012-09-03 lundi

嗜好品についてのエッセイを頼まれたと思っていたら、「口にする嗜好品」のことだった。
これは使えませんということで没になった原稿。
「読みたい」という方がツイッター上に二人いらしたので、公開します。
ぜひお読みいただきたい、というようなクオリティのものじゃないんですけど・・・

嗜好品というものがない。
だから、よく男性誌で特集している「男なら、この一品」というようなカタログを眺めても、そのようなものに「こだわる」人の気持ちがよくわからない。
自分の持ち物については、洋服も、靴も、時計も、ペンも、バイクも、自動車も、家も、別に「これでなければならない」というようなこだわりがない。
必要になったら、ふらふらと街に出て、ウインドーショッピングをしているうちに「目が合う」ものがあれば、それを買う。それだけである。迷うということも、目移りするということも、ない。目が合ったら、「あ、これください」だけである。
だから、買い物にはぜんぜん時間がかからない。
今乗っている自動車は銀のBMWである(型番とかあるのだろうが、よく知らない)。
原チャリで国道を走っているときに、ディーラーの前を通過した。何気なく横目でウィンドーを見たら突然BMWが欲しくなった。そのままバイクを停めて、店に入って、展示モデルを見渡したが、どうも違う。
営業マンに「カタログ見せて」と頼んで、ぱらぱらめくったら「目が合った」。
「これください」と言ったら、営業マンの若者がしばらくぼんやりした顔をして私をみつめていた。
「ほんとうにお買いになるんですか?」と訊かれた。
原チャリで乗り付けた防寒用のダウンジャケットに汚いジーンズの男にパンを買うような口調で「これください」と言われたのに、ちょっと傷ついたようだった。
それから細かい仕様について相談した。カーナビはどうするとか、フォグランプはつけるかとか、そういうことである。
適当に決めて、立ち去った後、家に電話がかかってきた。
なんだか困った声で「ほんとうに買ってくれますよね?店長がどうしても信じてくれないんです」と言われた。