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成瀬先生が来る

ヨガの成瀬雅春先生と対談。
何度かの対談をまとめて単行本にするのである。
対談は今日が最後で、来春には本が出る予定。
成瀬先生たちご一行が合気道のお稽古を見学に来た。
木曜日から「股関節と肩甲骨をがばっと開いて、身体を刃のような一重身にして、深層筋からの力をそのまま作用点に伝える」という身体の使い方を工夫している。
それは先日黒田鉄山先生のDVDで、駒形改心流の型のいくつかを見て、その独特の一重身から、「やっぱ股関節と肩甲骨だわな」と思ったからである。
前に大相撲の一ノ矢さんと『考える人』の「日本の身体」で対談したときに、シコが股関節、テッポウが肩甲骨の「開き」のためのものだということを教えていただいた。
相撲の場合は「自分の身体から出せる最大の力を出すためにはどういうふうに身体を使うか」というはっきりした目標がある。
そのための稽古法として、シコと摺り足とテッポウと股割りがある。
この四つに共通する身体運用上の効果は「一重身になる」ということである。
股関節を開き、肩甲骨を「抜いて」、一重身になる。
それによって下半身の太い筋肉群の力が足先指先にまでロスなしに伝導される。
体術の場合、相手が接している身体部位が緊張すると、相手はすぐに反応して、そこを咎める。
そのことを「起こり」という。
「起こりを消す」というのは技法上の最優先の課題であるが、物理的に言えば、それは「相手に感知されない部位の筋肉を動かして、技を遣う」ということである。
合気道の場合は手首が接点になる型がたいへん多い。
それはおそらく手首がもっとも「起こり」が出やすく、かつそこを制すると全身の運動が規制されてしまう鍵になる部位だからである。
だから、手首周辺の筋肉にまったく緊張がないままに深層筋からの強い力が指先まで一気に伝わるために、どんなふうに身体を使えばよいのかということが技法上の課題になるのである。
股関節の「開き」と肩甲骨の「抜き」によって、手首周辺の筋肉には緊張がないまま、身体は一気に一重身になり、深層筋の強い力がそのまま剣先にまで伝わる。
その術理が鉄山先生の映像をみていてよくわかった。
木曜日に大学のクラブで数人を実験台に稽古してみて、その実効性がわかったので、さっそく土曜日に芦屋の道場でも適用してみる。
たしかな効果があったと思う。
もともと上体の筋肉に頼らないタイプの人たちは股関節の開きが自然にできている。でも、肩甲骨の使い方について意識的に工夫するということは、あまりなかったように思う。
それは「肩甲骨を抜く」と出力が変化するという「実感」がなかったからである。
今回は、これまで稽古のときに私がうるさく口にしていた「背中に意識を置いて一重身をつくる」「身体を正中線に対してできる限り薄くする」「全身の筋肉の緊張を均等にする」といった指示を「肩甲骨の抜きによって達成された力感の変化」としてとらえてもらった。
人間の身体はそれまで意識したことのなかった身体部位を「使え」という指令が脳から来たときに、当然ながら「混乱」に陥る。
だが、この混乱は生産的な混乱である。
「運動精度を高めよ」という指示と「雄渾に動け」という指示が同時に来ると、身体は混乱する。
そして、何かこれまでしたことのない不思議な動きを始めてしまうのである。
それは「カレーが食べたい」という欲求と「トンカツが食べたい」という欲求が同時に到来したときに、「えいや」とばかりにカツカレーを作ってしまった料理人の経験に似たものである。
稽古とは混乱と葛藤の連続である。
それをどのように生産的なかたちで連続的に提示できるか。
それが指導者のエンドレスの宿題である。
今日、特にその稽古に重点を置いたのは、もちろん成瀬先生がご覧になっていたからである。
このやり方や説明が正しいかどうかわからなかったので、成瀬先生に見て頂いたのである。
私のやっていることが正しければ、笑って「それでいいんじゃないですか」と言うはずである。
間違ったことをしていたら、やっぱり笑って「それでもいいんじゃないですか」と言うはずである。
「も」が入るか入らないかの違いであるけれど、私にとっては大きな問題である。
さいわい「も」が入らなかったので、ほっとしたのである。
達人が同時代にいて、定期的に会えることの最大の恩恵は「自分が正しい方向に向かっているかどうかを確かめることができる」ということである。
そのありがたさを噛み締める。

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2010年12月05日 13:01 に投稿されたエントリーのページです。

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