FCCJ にて

2010-03-31 mercredi

海外特派員協会 (Foreign Correspondent’s Club of Japan) にご招待されて、昼食会で講演をする。
「英語でしますか、それとも日本語?」と最初に訊かれた。
クラブの公用語は英語なのだそうで、ふつう講演は英語でされているようである。
私の英語力は日本語運用能力の3割程度である(ジャッキー・チェンの英語運用能力よりはクリス・タッカーの中国語運用能力に近い)。
「3割」というのは「言いたいことの30%しか言えない」というより「言っていることの70%は理解できない」というふうに解していただきたい。
もちろん日本語です〜とお答えして、通訳をつけていただくことになった。
東京駅に新潮社の足立さんに迎えに来てもらって、二人で有楽町駅前のクラブへ。
クラブのみなさんにご挨拶。MCをしていただくイギリス人のスポーツライターのフレッドさんと打ち合わせ。
よくハリウッド映画で見る「特派員たち」は基本的に旅人で皮肉屋で反権威主義という定型があるが、それはやはりほんとうで、日本の優等生的新聞記者とはぜんぜん肌合いが違う。
基本的に「悪童」なのである。
MCのヴァーコさんは「オレは日本に 20 年いるよ」と言っていながら、「あ、キミの本は読んでないのね。ごめんね。オレ日本語読まないから」とからからと笑う。
サイン帳を見ると、前日は榊原英資が講演している。
どんな話をしたんですかと訊いてみると、「あ、オレ、それ聴いてないわ」
少し前には勝間和代が講演をしている。
「勝間さんはどんな話でした」と訊いてみると、「あ、オレ、それ聴いてないわ」
あ、そうですか。
イタリアのTVレポーターのピオさんが半畳を入れる。
「な、イギリス人て野蛮だろ。イタリアがローマ帝国やってるころ、彼らは森の奧にいたからね」
なるほど、「特派員気質」というのは『日はまた昇る』の頃からあまり変わっていないことが知れるのである。
典型的な「男の世界」である。
「態度の悪い男たち」に囲まれて俄然元気になる。
そういうことなら、こっちも「いつものまま」でよろしいわけである。
正午からホールでお昼ご飯。
会食者のほとんどは海外特派員ではなく、日本人のアソシエイトたちであった。なんだ日本語でほとんどの聴衆には通じるんじゃないか。
ほっとする。
フレッドさんと「横飯」(昨日ツイッターで質問があったけれど、これは「よこめし」と発音する。外国語を話しながらお食事をすること。食べ物の味がしない)をする。
フレッドさんは日本の政治にはどうしてリーダーがいないのか、どうして日本は自国の国益を明確に主張しないのか、普天間基地問題でどうしてアメリカの顔色なんか伺うのか、日本と沖縄の要求をはっきり米軍に突き付けてやればいいじゃないか。だいたい沖縄にヘリコプター基地なんか要るのか、と立て続けに質問攻めにしてくる。
あのですね、日本の政治家に期待されているのはリーダーシップではなくて調停役なんです。国益を「あたかも国益を主張していないかのようなふるまい」を通じて確保するというのが辺境の国民的伝統なんですよ。
というようなご説明をするがフレッドさんは片づかない顔をしている(もちろん私の英語運用能力の問題が大きく関与しているのであるが)。
だから、その話をこれから講演でしますから、それ聴いててくださいとお頼みする。
講演は30分ほど、そのあと1時間ほどの質疑応答。
私の講演は「いつもの話」である。でも、質疑応答が面食らうような質問ばかりで、面白かった。
終わったあとに何人かから仕事のオッファーがある。
クロアチアのシュタンブク大使から「たいへんお話が面白かった。こんど一度ご飯を食べながら差しでお話しできないか」とお誘いを受ける。
横飯ですか〜。へへへ、そのうちにとお答えする。
『辺境論』を外国語に訳す計画はあるのかと何人かから質問される。
はい、それについてはこちらの新潮社の足立さんにお訊ねください。
日本の奇怪な国家行動の規則性と構造をご理解いただくために書いた本であるから、外国の読者に読んでいただくことは大歓迎である。
成田から養老先生といっしょに台北に遊びに行く足立さんと東京駅でお別れ。
新幹線に乗ると、どっと疲れが出て、ぐーすか眠り込む。
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