ナショナル・ストーリー・プロジェクト・ジャパン

2010-03-08 lundi

業務連絡
急ですけど、ポール・オースターの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』の「日本版」を作成することになりました。
お読みになった方はご存じですよね。
新潮社から訳が出てます。翻訳は柴田元幸さんたち。
(追記:アルクからも出てました。ゼミの卒業生の澤くんから「うちで CD 付きの出してますけど・・・」というメールが来ました。それをもらっていたのでした。紹介し忘れてごめんね)
『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』はどういうものかと申しますと、アメリカのいろいろな普通の人たちに寄稿してもらったショート・ストーリーの中から佳作をラジオでポール・オースターが朗読するという、それだけのものです。
でも、これが面白いんです。
ポール・オースターはラジオで、どのような物語を求めているかについてこんなふうに話しました。

「物語を求めているのですと、私は聴取者に呼びかけた。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません。私が何より惹かれるのは、世界とはこういうものだという私たちの予想をくつがえす物語であり、私たちの家族の歴史のなか、私たちの心や体、私たちの魂のなかで働いている神秘にしてはかりがたいさまざまな力を明かしてくれる逸話なのです。言いかえれば、作り話のように聞こえる実話。大きな事柄でもいいし小さな事柄でもいいし、悲劇的な話、喜劇的な話、とにかく紙に書きつけたいという気になるほど大切に思えた体験なら何でもいいのです。いままで物語なんか一度も書いたことがなくても心配は要りません。人はみな、面白い話をいくつか知っているものなのですから。」(『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』、ポール・オースター編、柴田元幸他訳、新潮社、2005年、10頁)

そうやって集まったショート・ストーリーは4000通を超えました。
それはあらゆる場所の、あらゆる年齢の、あらゆる職業の語り手による、信じられないほどに多様な「作り話のように聞こえる実話」。それを読んでいるときポール・オースターは「アメリカが物語を語るのが私には聞こえた」(11頁)と感懐を述べています。
どのような物語が収集されたかは実物を徴していただくとして、このプロジェクトの日本版をやることになったのです。
どういう事情で私がこのプロジェクトにかかわるようになったのかを事細かに話す機会はいずれあると思いますが、とりあえずはお知らせです。
「物語を求めています。」
「本当にあった『嘘みたい』な話」
「長さは2000字程度」
それだけです。
でも、この「本当にあった嘘みたいな話」という条件がまことに重要なんです。
「嘘みたい」という条件に一般性はないからです。
「オレ、昨日ミック・ジャガーに『ブラウン・シュガーの歌い出しってどんなんだっけ』って訊かれたよ」というような話って、ぼくがすれば「嘘みたいな話」ですけど(嘘ですけど)、話しているのがストーンズがスタジオで録音中のプロデューサーだったら「ミックももう年だねえ」というような感懐を伴う「ごくふつうの話」だということになる。
つまり、ある物語を「嘘みたい」と感じるのは、語り手の固有性なのです。
「嘘みたい」という感懐のうちに、ある個人の余人を以ては代え難い、ぎりぎりの唯一無二性が露出することが、ある。
つねにそうなるとは限りませんけれど、そういうことが起こる確率が高い。
ですから、「その人にとってはあり得ないはずのこと」があり得たという事件を通じて、ポール・オースターは「アメリカが物語るのを聴いた」のでした。
同じようにして、ぼくも、「日本が物語るのを聴いてみたい」と思います。
プロジェクトの全体については、いずれメディアで告知されますので、これは「先行広告」です。
とりあえず、このプロジェクトで「読み手」の仕事をするのはぼくと高橋源一郎さんです(この前パーティで会ったときに頼んじゃいました)。
それから柴田元幸さんにも当然ながらぜひ参加して欲しいと思っています(これから交渉)。
投稿先はこのあとこのブログで告知します(いきなりぼくのところに送らないでくださいね)。
ついては最初に「甲南麻雀連盟会員」全員に一篇ずつ書いてもらいます(もちろん浜松支部もね)。
これは総長命令です。
締め切りは 3 月 18 日。
連盟参与の平川くんはすでに「オレもう書いちゃったよ」と言ってくれております。
以上、業務連絡終わり。
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