台風の予兆の中、東京へ。
アルテスのお仕事で、鈴木・船山さんの吉祥寺の新居におじゃまして、リビングのテーブルでコーヒー飲みながら加藤典洋さんとお気楽対談。
対談のテーマは特になく、ひたすらおしゃべりをする。
連合赤軍の話、幻の深作欣二監督笠原和夫脚本『実録・日本共産党』の話、アメリカ連合国の「敗戦」経験がアメリカにもたらしたトラウマの話、『大菩薩峠』と『1Q84』の共通点の話などなど、話頭は転々奇を究めて要約を許さないのである。
それにしても、加藤さんの繰り出す「アイディア」は意表を衝くものばかりで、ほんとにびっくり。
私は「ほお」とか「はあ」とか間抜けな相槌を打つばかりで、どうも芸がないように見えるかもしれないけれど、これはこれで「受け」の芸を発揮して、加藤さんが話し易いようにいろいろ工夫をしているのである。
話は翌日も続き、これで一冊本になる。面白い本になりそうである。
それからワインを飲みつつ、船山さんの手作り料理をぱくぱく食べながら、猫談義。
9時ごろからテレビで開票速報を見る。
予想通り、民主の圧勝。自民党は結党以来の第二党転落。
鳩山由紀夫民主党代表が深夜記者会見。
これまでとうって変わって、落ち着いた質疑応答ぶりに驚く。
記者たちの質問に「全部」答えたのである。
ふつう政治家は答えにくい質問に答えない。違う話にすり替える。
鳩山代表も選挙戦のあいだはそうだった。
それが総理大臣のポストが目の前に見えてきたら、態度を改めた。
意外に名宰相になるかもしれない。
31日。朝から台風の影響で風雨つよし。
11時から『第三文明』のインタビュー、「共同体をどう構築するか」という話。
「ハーバーライト」のたいせつさについて語る。
12時半から毎日新聞のインタビュー、選挙の総括。
「大山鳴動して鼠一匹」という総括をする。
「大山が鳴動するほどのエネルギー」が費消されたが、起きた変化は「鼠一匹」程度のものである。
私はそれが悪いと言っているのではない。
それでよいのではないかと申し上げる。
国民は大きな変化を望んでいない。
現に自民党と民主党の公約の内容はほとんど違わなかった。
だから、どちらが政権を担当しても、マニフェストどおりにことが進むなら、国民生活は安定し、雇用状況は改善され、少子化問題も年金問題もみな解決するはずである。
でも、もう私たちは自民党に飽き飽きしていた。
麻生太郎があの見下したような目線で、記者の質問にまったく答えようとしない横柄な態度をこれからまたテレビで見せられるのかと思うとげんなりしたのである。
だから「チャンネルを換えた」のである。
いずれ似たような番組であることに違いはないのだが、こちらの役者にうんざりしたのである。違う芸風の芝居が見たくなったのである。
麻生政権では連立与党の党首も、自民党の幹事長も、官房長官も、みんな「ワルモノ」の顔をしていた。
『水戸黄門』だったら必ずや悪代官をキャスティングされるべき顔つきとふてぶてしい物言いの政治家ばかりを中枢に集めた。
どうしてこんなに顔の人ばかり・・・と不思議に思ったのだが、あれは「気分悪かったら、早くチャンネルを換えてください」という、与党サイドからの無意識のシグナルだったのかも知れない。
彼らももう「こんなクサイ芝居」には自身でうんざりしていたのだと思う。
それから雨の中を移動して、早稲田大学へ。
加藤典洋さんの研究室で、昨日の続き。
今回はふたりの大学生活を語る。
加藤さんは今でこそずいぶん温和な紳士であるが、若い頃は「野性児」だったらしい。
がお。
6時までお話しする。
この対談はアルテスから本になって出ます。面白いよ。
雨の中を今度は代官山に移動。本日最後の仕事は『Sight』の総選挙総括特集で、高橋源一郎さん、渋谷陽一さんと鼎談。
この三人は前の号で「さよなら自民党、そしてこんにちは自民党」というテーマで、日本の政権与党は「言葉をもたない政党」でなければ勤まらないという結論に達した。
その話の続きで、自民党と民主党はこれからどうなるのかについて勝手な予測を立てる。
自民党はこのままジリ貧で党勢を失い、やがてかつての社会党のように民主党に埋没するであろうというのが大筋での合意。
高橋さんが「自民党戦後文学説」「自民党家父長説」「自民党熟年離婚説」など奇論怪説をつぎつぎと繰り出すので、私と渋谷さんはひたすらげらげら笑うばかり。
いや、ほんとうにおもしろかった。みなさん、9月発売の『Sight』ぜひ買って読んでくださいね。私はこの鼎談以外に、渋谷さん相手の「結婚について」ロング・インタビューにも出てます。同人誌じゃないのにね。
大笑いして、痛飲して、学士会館に戻り、爆睡。
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(2009-09-01 12:00)