立て、立つんだ、ジョー

2009-03-18 mercredi

ようやく風邪が癒えたようである。
まだ咳が出るが、「身体の芯の詰まり」は解消した。
ご心配をおかけしました。
朝、三宅接骨院に行って、身体を調整してもらう。
三宅先生の温顔を見ると、それだけで半分がた回復する。
続いて、宝塚南口の光安さんのところに行って、髪を切ってもらう。
火曜日は定休日なのであるが、日曜日に予約をして行こうとしたところにアダチさんから電話がかかってきて、私は『新潮45』の取材と光安さんとこをダブルブッキングしていたことが知れたのである。
ダブルブッキングはグーグルカレンダーの導入以後絶えていたのであるが、最初に時間を入力し間違えれば同じことなのである。
しかし、水曜は卒業式であり、私の頭はすでに「石川五右衛門」状態プラス「片アトム」(わかりますね)と化しており、これで式場に登壇するのははばかられる。
光安さんに泣きついて、貴重な時間を割いていただき、休日の美容院を借り切って散髪していただいたのである(光安さん、ありがとうございました)。
頭髪マッサージをしてもらっているうちに爆睡。
自分でも大口をあけて寝こけているのがわかる。
武道家として、このようなワキの甘い態度はいかがなものかとも思うのであるが(ギャング映画を観る限り、床屋でのど笛掻き切られて暗殺されるというのは日常茶飯事のようであるからして)、眠いものはしかたがない。
三宅先生に肩をほぐしていただき、光安さんに頭をほぐしていただき、すっかりリラックスする。
帰途、芦屋のラポルテに寄って、合宿用に大先生の写真を納めるフレームを購入。
発作的にレイバンのサングラスを買う(50%オフだったんだもん)。『マトリックス・リローデッド』でキアヌ・リーブスがかけてたみたいなやつ(キツネ眼になるの)。
住吉からタクシーに乗る。
そして、発作的にタクシーの運転手(とりわけ個人タクシーの方々)の中に、古賀誠に酷似した人が多いという事実に気づく。これはぜひ一度『探偵ナイトスクープ』で検証していただきたい。
家に戻り、まず河出書房新社に高橋源一郎・柴田元幸ご両人の対談集『小説の読み方、書き方、訳し方』の書評を書いて送信。
続いて日経に福岡伸一先生の『動的平衡』の書評を書いて送信。
続いて『ウォーロード』の映画評(これは公式パンフ用らしい)を書く。
正直言って、どう書いていいのかわからない。
わりと「取り付く島」のない映画なのである(いや、面白いんですけどね、すごく)。
ジェット・リー、アンディ・ラウ、金城武が太平天国と清軍の内戦の中で軍閥としてのしあがってゆき、やがて悲劇的な対立に巻き込まれてゆく・・・という話である(英語原題のwarlords は「清末の地方軍閥の将軍たち」のことである。「ウォーロード」とカタカナ表記されてしまうと、ふつうのひとは「戦争の道」のことだと思うであろうが)。
でも、「切り口」がないんですよ、これが。
話が面白く、人物造形もそれなりに手が込んでいて、時代背景も興味深く、戦闘シーンもよくできている。
こういう映画がいちばん困る。
映画評論をしている人間としては、どこかに「馬脚」が出てないと、食いつく手がかりがないのである。
歴史的名画であれば、ひたすら賞賛していればよろしい。
でも、『ウォーロード』はウェルメイドな武侠映画ではあるけれど、歴史に残る傑作ではない。
傑作ではないが、取り付く島がない・・・これは困った。
しかたがないので、これは『昭和残侠伝』と『総長賭博』を足して二で割って胡麻油で炒めたような映画である、ということを書く。
書いては見たが、この映画をロードショーで見に来る諸君はどちらも見ていないであろうということに思い至り、この案は破棄。
つづいて、シェークスピアとギリシャ悲劇との比較演劇論的アプローチを試みるが、考えてみれば、この映画をロードショーで見に来る諸君が『マクベス』や『悲劇の誕生』を読んでいる可能性は『昭和残侠伝』以下であるので、これも途中で却下。
最後に「葛藤と成熟」という『街場の教育論』で論じたフレームワークを思いついたので、これでゆくことにする。
金城武が諸悪の根源であるという結論になったら、なんだかすっきりした。
そうなのである。
こういう話では、「もっとも純真無垢な人」が災厄として機能することになっているのである。
そういえば金城武くんは「本人はまじめで誠実なのだが、その微妙に勘違いなふるまいによって周囲にトラブルを巻き起こす人物」によって銀幕デビュー(『恋する惑星』)を果たしたのではなかったか。
そのあと『天使の涙』で、「いいやつなんだけど、すげ〜はた迷惑」キャラを完成させた。
今回の『ウォーロード』はその延長上とお考えいただければよろしい。
書き上げたらもう9時になっていた。
チキンカツを作ろうと思っていたが、もう揚げ物をする時間ではない。
しかたなく、「ゆで卵カレー」をぼそぼそ食べてビールを飲む。
テレビをつけたら辰吉丈一郎がタイで復帰戦をするまでのドキュメンタリーをやっていた。
辰吉は「いい顔」になっていた。
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