株式市場の混乱で、ついに新卒者の内定取り消しが出始めた。
以下は朝日新聞の報道から。
米国に端を発した金融危機が、大学生や高校生の雇用に影を落とし始めた。ここ数年は「売り手市場」との声さえ聞かれた就職戦線。しかし、「経済情勢の激変」を理由に、一転して内定や求人の取り消しが相次ぐ事態になっている。急速に冷え込む「雇用」に大学や教育委員会は不安を隠せない。
「このまま入ってきてくれても希望の部署にはいけないと思う。あなたのキャリアを傷つけることになるので、就職活動を再開した方がいい」
関西の私立大に通う4年生の学生(21)は先週初め、5月に内定をもらった大手メーカー(東京)から、電話で内定「辞退」を促された。今月初めの内定式で顔を合わせたばかりの人事責任者は、「業績が悪化し、株価も激しく落ちている。会社はリストラを始めている」と付け加えた。
学生にとっては、留学経験を生かせると考えて内定3社の中から選んだ会社だった。同社の内定者仲間にも同様の電話がかかっている。学生は「今はまだパニック状態としか言えません」とこぼした。
「こんな事態は初めて。内定取り消しなんてしたら、翌年から誰もその会社には応募しなくなるのに」。
流通科学大(神戸市西区)の平井京・キャリア開発課長は困惑を隠せない。同大学の4年生2人が、相次いで就職の内定取り消しを受けたからだ。
大阪市の不動産会社に内定していた男子学生は、9月下旬に呼び出され、「景気が悪くて、マンションが売れない。社員の一部にも退職をお願いしている危機的な状況だ」と取り消しを告げられたという。学生は「この時期から、どう就職活動をすればいいのか」と途方に暮れる。
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大学3年生の就職活動はまさにスタートしたばかりだ。28日、商社の企業説明会を受けてきたという和歌山大教育学部3年の女子学生(20)は「説明会でも景気の影響で採用は減ると言われた。不安なので、公務員試験の勉強もしています」。
奈良県立大(奈良市)の就職指導室では、3年生に早めに就職活動を始めるよう指導するつもりだ。「学生には公務員など別の進路を考えることも指導したい」と担当者は話す。
就職支援サイト「リクナビ」の岡崎仁美編集長は「売り手市場は08年春入社でピークを超えた」とみる。流通や外食産業を中心に採用計画の見直しが進み、来春採用の内定者が採用予定数に満たなくても補充しない企業も増えてきた。岡崎さんは「大学3年生が就職する10年春の採用では、募集するかさえ決められないでいる中小企業も多い」と話す。
ゼミの四年生はもうおおかた就職先が決まった。
しかし、三年生たちの就活はこれからである。一年前と比べて求職環境は激変することになる。
金融関係や輸出頼みの産業は当然求人を絞り込んでくるだろう。
「就職氷河期」というかつて一世を風靡した言葉がまた復活することになるのかも知れない。
とりあえず就活の学生たちには「産業構造の変化」について基本的なレクチャーをしている。
どのような業種がこの経済環境で生き延びることができるのか、予測することはそれほどむずかしくはない。
金融はしばらく立ち直れないだろう。
新銀行東京の混乱ぶりを見ていると、金融マンの能力もモラルも私たちの予想を超えて劣化が進行しているようである。
一時期目を血走らせた学生たちが殺到した大学の「金融工学」領域もおそらく来学期は志願者を確保することさえむずかしくなるだろう。
不況になるとまっさきに削られるのが広告費である。これはバブル崩壊時に経験済みである。
すでに雑誌の廃刊が相次いでいるが、原因の一つは広告出稿の減少である。
毎日配達される新聞はどんどん厚くなっているが、読むところはだんだん減っている。
新聞広告が異常に増えているせいである。
広告が増えるのは「数」でこなさないと出版コストがまかなえないほどに出稿単価が安くなっているからである。
先日、ゴールデンタイムにひさしぶりにTVをつけたら、ある電鉄会社とある畳メーカーのチープなTVCMがオンエアされていた(「ふざけて安っぽく作っているのか?」と一瞬目を疑ったほどである)。
制作費はたぶん100万円くらいだろう。
その程度の資金力しかない企業でもゴールデンタイムにCMが打てるほどにTVCMの時間売り単価は暴落しているということである。
昨日の夜、スポーツニュースを見ようと思って11時台にしばらくTVを見ていた。
CMばかりで、なかなかニュースが始まらない。ニュースが始まっても途中ですぐに切れてCMが入る。私が見ていた15分ほどについて言えば、もう放送コンテンツとCMの放映時間はほとんど同じだった。
単価の安いCMをとにかく数でこなさなければ制作費がまかなえないところまで来ているということである。
ヴァラエティに吉本興業の芸人しか出なくなったのはたぶんTV局が吉本興業と格安の「パケット契約」しているからだろう(違うかな)。
「使い放題」契約なので、TVのプロデューサーたちは「使わないと損」だとばかりにヴァラエティ番組に10人も20人もの芸人を並べるようになったのではないか。
(追記:と書いたら、携帯電話会社につとめている大学院聴講生のスナダくんからメールが来て、この場合は「パケット定額」と表記するのが正しいのではというご指摘を受けました。スナダくんによると「パケット」というのは携帯等でデータ通信をする場合に使う方式のことで、1 パケットとは通信したデータの量が 128 バイト(日本語で 64 文字分)です。docomo だとこれが0.2円だそうです。このパケットを使い放題にするのが「パケット定額」だそうです。なるほど、と言われても「128バイトを使い放題」と言われても、「それだと128バイトまで使い放題ということ・・・?」とコトバの意味がやっぱりよくわかっていないウチダでした。以上、訂正でした!)
これほどTVのコンテンツが劣化してくると、そのうち広告主もブランドイメージを守るために出稿をためらうようになるだろう(本業の収益がないので、広告費も出ないし)。
というわけだから、私の見るところ、民放を筆頭に、広告頼りのマスメディアはどれも「就職危険業種」である。
新聞社や出版社も危ないが、それなりのコンテンツの備蓄があるから、当座はしのげるだろう。でも、アーカイブにこのあと新しい知的コンテンツを加算できなければビッグ・ビジネスとして生き残ることはむずかしいだろう。
輸出だよりのメーカーは円高で今は気息奄々であるが、何はなくとも手元に「ブツ」があり、技術がある。
「他を以ては代え難い」ところの製品と技術を基盤にする「クラフトマン」型企業はたぶんこのあとも大丈夫だろう。
安全策の公務員志望が増え、当然、教員志望も増える。おそらく「様子見」の大学院進学者も増えるだろう。
あとはまだよくわからない。
第一次産業と医療介護関連と「貧困ビジネス」はこれから市場規模が急伸するだろう。
もうひとつこういう景況のときにかえって収益が増加する業種がある。
「宗教法人」である。
ただ、これはふつう大学には求人票が来ないので、学生たちに就活指導のしようがないのである。
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(2008-10-29 18:36)