世界連鎖株安が止まらない。
株価が下がるのは株式の「価値」についての評価が下方修正されているということで、下方修正されるにはそれなりの「わけ」があり、「わけ」がある以上仕方がない。
これまで株価を過大評価してきたことによってたくさん「儲け」が出た。その「儲け」を今吐き出しているのである。
問題は「儲けた人間」と「吐き出している人間」がしばしば別人だということであり、それさえ気にしなければ全体としては「とんとん」なのである。
こういう調整はどのメカニズムにおいても働く。
アメリカは公的資金を投入して金融機関を救済することにした。平たく言えば、「銀行の国有化」である。ビッグ3にも公的資金を投入した。これは「自動車産業の国有化」である。
アメリカは新自由主義のもたらした社会的な歪みを補正するために今「社会主義化」されつつあるのである。
バラク・オバマが大統領になり、保険や年金制度などのセーフティネットが整備されれば、アメリカはいよいよ社会主義化することになる。
一方、ロシアや中国は社会主義のもたらした歪みを補正するために今「資本主義化」されている。
40-60年代に世界は「社会主義」と「資本主義」に二極化していた。その頃、資本主義国家内では「革命」運動が活発であり、社会主義国家内では「民主化」運動がおこなわれた。
つまりそれぞれの国内ではローカルなかたちでの二極化が存在したのである。
それぞれの党派的立場の方々は自分が正しく、おまえは間違っていると口を尖らせて主張していたが、ほんとうは「対立する立場が拮抗している方がバランスがいいんだから、まあ、これでいいじゃないの」というのが「一般解」だったのである。
結果的に半世紀かけて「二極間の距離」はしだいに縮まって、資本主義は社会主義化し、社会主義は資本主義化するというかたちで均衡は安定に至った。
これを私たちは「経済のグローバル化」と呼んでいる。
政体は経済ほど劇的には二極化が終熄しないけれど、いずれすべての独裁政権は民主化されることになるであろう。
これもまた構造的には不可避なのである。
独裁制というのは独裁者が賢明である限り、たいへん合理的な政体なのであるが、残念ながら、独裁者というのはその後継者の選択において必ず「自分よりバカな人間」を選んでしまう。この経年劣化が三代も続くと、「売り家と唐様で書く」独裁者の施策のほとんどは失敗を宿命づけられることになるのである。
何が言いたいかというと、いま進行しているのは大枠で言えば、「偏在していた富がばらける」プロセスだろうということである。
BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)という新興経済圏に富は集まり始めているし、人口わずか120万人のドバイには今世界のゼネコンが集まっている。
私は前に「短期的な変化にはしばしば合理性がないが、100年単位での構造的な変化にはたいてい合理性がある」と書いたことがある。
「アメリカに集中していた富が世界に還流される」というのはとどめることのできない歴史的趨勢である。
どこが先に潤うか、ということについては偶発的な事情がかかわってくるので予見できないが、いずれ今のアメリカ以外の国々がアメリカが享受してきた「富を独占するシステム」をシェアすることになるという全体的趨勢は変わらない。
「今のアメリカ」とわざわざ書いたのは、アメリカが「今のアメリカじゃないアメリカ」になれば、アメリカにもチャンスはある、ということである。
アメリカは世界でもっとも「国民国家らしくない国民国家」だからである。
アメリカでは、あらゆるレベルでのイノベーションをつねに「移民」が担い、「原住民」はそのつど排除されるというシステムを採用して繁栄してきた。
そのシステムを今後も継続できるなら、「アメリカの覇権」が崩壊したあとに、次のチャンピオンになる可能性がもっとも高いのは「新しいアメリカ」すなわち「アメリカ社会主義共和国連邦」である。
ぜひこれは略称して「ア連」と呼んで頂きたい。
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(2008-10-11 10:00)