二月の秋刀魚

2008-02-13 mercredi

大学入試C日程。
今年からはじまった前期と後期のあいだの「中期入試」。
受験生にとっては受験機会が増えるし、大学にとっても受験料収入が増えるし、「みかけ」の志願者数も増えるから、双方にとってありがたい話であるが、よくよく考えると、その分だけ他の入試で合格する人の数を減らしているわけである。
気の毒なのは、何度も受けて何度も落ちる「大学へのロイヤルティは高いが、学力の低い」受験生である。
大学での「のびしろ」を見ると、「大学へのロイヤルティの高さ」は学力の向上とつよい相関がある。
本学のさまざまな試験を10回近く受験したが・・・というような気の毒な受験生には「マイレージ」で下駄を履かせて入れてあげたいね、というような話を控え室でする。
本年の本学の志願者数は前年度比160%という大健闘である。
これは試験数が前年度より増えているから、単純比較はできないけれど、実数でも志願者は増加している。
全体の傾向では、次々と新学部を展開している「関関同立」に志願者が集まり、中小は大苦戦。志願者数が減りすぎてもうどうにもならない大学も少なくない。
18 歳人口が120万人に減少している危機のときに、18歳が205万人いた 92 年よりも大学数が増え、それぞれの大学も定員を増やして対応しているわけなのだから、しかたがない。
ただ、その新学部の集客力もどこまでもつか。
一時期人気だった総合政策学部はどの大学も志願者を激減させた。
女子大が争って新設した薬学部も同じ憂き目にあっている。
いずれどこも、新しい学部を作っては、それを棄てて次の新学部を・・・という自転車操業的蟻地獄にはまりこむことになるだろう。
最終的には大学の生き残り競争は「どこまで損失を出してもつぶれないで保つかの資金力」を競うことになる。
やがて、執行部の過半がビジネスマンで、きわめて低い労働条件で教職員を雇用し、ネットとアウトソーシングを活用してコストのかかるスクーリングをできるだけ減らした「低コスト体質」の大学だけがこの「チキンレース」を生き残ることになるであろう。
文科省のめざす教育改革や財界の望む教育への「市場原理の導入」の行き着く先は、要するに「そういうこと」である。
みなさんが「そうしたい」と言うから「そういうこと」になったのである。
文句を言う相手はどこにもいない。
さいわい本学は「浅草の路地裏の煎餅屋」のような小商いであるから、「おたくの煎餅じゃなきゃダメなんだよ」というこだわりのクライアントを少数確保しておけば、細々と商いを続けていける。
そういう大学がいくつか残ることだけが最後の希望である。

入試監督を終えて、レポートを出してから家に戻る。
日の高いうちに家に戻ったのは久しぶりのことである。
コーヒーを一杯飲んでから、締め切りリストを見る。
ゲラは三つ残っているが、とりあえずそのことは忘れて一番切羽詰っている鷲田先生のお仕事から片付けることにする。
10行くらい書いたところで「待ち合わせ」のアラームが鳴る。
げ、と思ってみると「神戸新聞取材」とある。
忘れていた。
あわてて御影駅へ。
寒空に記者さんとカメラマンさんを放置していた。
ごめんね。
お題は「私のいちばんすきな映画」。
『文藝春秋』の「昭和の美男」、『映画秘宝』のオールタイムベストテンもあったし、似たようなアンケート取材が続く。
もちろん私のベストワンは小津安二郎『秋刀魚の味』。
あらためて、『秋刀魚の味』のどこがすばらしいのかについて考える。
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