1年生のゼミで「地球温暖化」が取り上げられた。
地球温暖化を防ぐために、京都議定書の規定を守り、急ブレーキ、急発進を自制し、わりばしをやめてマイ箸を使いましょう・・・というような話を聴いているうちに既視感で目の前がくらくらしてきた。
「地球温暖化の原因は二酸化炭素の排出」と学生さんたちはすらすら言うけれど、温暖化と二酸化炭素のあいだの因果関係はまだ科学的には証明されていない。
というと、みんなびっくりする。
気象というのはきわめて複雑な現象である。
「バタフライ効果」という言葉で知られているように、北京で蝶がはばたきをしたことによる大気圧の変化が、カリフォルニアに暴風をもたらすことがある。
複雑系ではわずかな入力差に対して巨大な出力差が生じる。
この場合に「北京の蝶のはばたき」を暴風の「原因」と名づけることには無理があるだろう。
排ガスと温暖化の関係もそれに似ている。
池田清彦さんによると、二酸化炭素の排出が急激に増加したのは、1940年から70年までであるが、この時期に気温は低下している。
温暖化の主因はむしろ太陽の活動の変化にあるのではないかと池田さんは書いていた。
たしかに地球の温度にいちばん関係があるのは太陽活動である。
太陽は63億年後には赤色巨星段階に入り、膨張を開始する。水星と金星はこの段階で太陽に呑み込まれて消滅する。
一度縮んだあと、また膨張を始め、最終的には現在の200倍にまで膨張し、その外層は地球軌道に近づく。
このとき地球にまだ人類がいたとして、「温暖化」などと悠長なことは言ってはおれないであろう。
そのあとは白色矮星となって、何十億年かかけて冷えてゆく。
最終的には地球はたいへん寒い状態になる。
なにしろ太陽がもうないんだから。
地質学的なスケールで考えても、現在は「間氷期」である。
地球は氷期と間氷期を交互に経験する。
最後の氷期が終わったのが、約1万年前。
黙っていても、いずれ次の氷期が訪れて、骨が凍えるほど地球は寒くなる。
そのときには海岸線がはるか遠くに退き、陸の大部分は氷に覆われ、動植物種も激減するであろう。
だから、私は温暖化には類的な立場からはそれほど怯えることもないのではないかと思っている。
地球寒冷化よりずっとましだと思う。
寒冷化した地球を想像してみたまえ。
夏が寒いんだよ。冬は豪雪で零下数十度。
冷夏では作物がとれないから、すぐに飢饉になる。
食料が高騰する。
いくら夏が暑いとはいっても、河原でも森の中でも、どこか涼しいところを探せば、なんとかしのげる。
でも、寒いときには「温かいところ」には必ず人間がいて、金を出さないとそこには入れない。
寒冷化した地球では、食料と暖房を買うことのできる人間しか生き残れない。
貧しい人間たち(つまり人類のほとんど)は遠からず凍死するか餓死する。
温暖化ではたしかに北極のシロクマさんたちは生活を脅かされて困っているであろうが、寒冷化で、人間たちが(もちろん動物植物たちも)ばたばたと凍死餓死するという未来もあまり想像したくない。
適当なところで落ち着いて欲しいものである。
似たことで「人口問題」というのがあった。
1970年代の「人口問題」は「人口爆発」をどう制御するかという問題であった。
2000年代の「人口問題」は「少子化」をどう防ぐかという問題に変わった。
人口は増えると政府は困り、人口が減ると政府は困った。
何が起きても、「現状と違うこと」が起きると政府はいつでも「困ったことになった」と言うのである。
だから、あまり政府の人々のしかめっ面を真に受けない方がいいと思う。
温暖化対策もそれほどヒステリックになる必要はないと思う。
「温暖化対策が成功しすぎて寒冷化した場合の対策」について考えている政治家はたぶん世界に一人もいないからである。
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(2007-10-09 09:51)