朝鮮総連の中央本部の土地建物が627億円の借金のカタに差し押さえられるのを防ぐために、元公安調査庁長官と元日弁連会長がダミー会社へ所有権移転をはかった事件について、メディアは「真相は謎」とか「意味がわからない」と繰り返しコメントしている。
どうして?
誰にだってわかるでしょう。
公安調査庁は破壊活動を行う可能性のある組織を監視する官庁である。
国内における監視のメインターゲットは朝鮮総連である。
現に今年の5月30日の公安調査庁長官訓示で、長官は同庁の喫緊の課題を三つ挙げている。
「第一は,国際テロ関連動向調査の推進であります。テロを未然に防ぐためには,国際テロ組織関係者の発見や不穏動向の早期把握が何よりも大切であります。」
「第二は,北朝鮮関連情報の収集強化についてであります。北朝鮮・朝鮮総聯の動向は,我が国の治安のみならず,我が国を含めた東アジアの平和と安全保障に重大な影響を及ぼすものであることから,今後とも喫緊かつ最重要課題として取り組む必要があります。とりわけ,日本人拉致問題や核・ミサイル問題などをめぐる北朝鮮の対応や実情について,政府の施策に貢献し得 る高度情報が求められておりますので,各局・事務所におかれては,金正日政権のこれらの問題に関する今後の対応方針や,朝鮮総聯に対する指示・指導等について,高度情報の収集に特段の努力を傾注していただきたいのであります。」
第三は「オウム真理教に対する観察処分の厳正な実施」。
その三つが公安調査庁のとりあえずの仕事である。
「三つもある」ともいえるし、「三つしかない」ともいえる。
そして、緒方重威元長官はそのうち「喫緊かつ最重要課題」をコントロールすることができたら、公安の仕事はずいぶん楽になるであろうと考えたのである。
私は緒方長官の推論はたいへん合理的であると思う。
彼がめざしたのは朝鮮総連に「恩を売る」ことではない(そんな情緒的な人間は諜報活動に従事できない)。
そうではなくて、北朝鮮からの情報を専管し、国内におけるあらゆる北朝鮮関連活動の指令がそこから発されるような「中枢」が存在することは、そのような「中枢」が存在しない場合よりも「北朝鮮関連情報の収集強化」のためには有利であると判断しただけである。
ジェームズ・エルロイが書いているように、警察の夢はすべての犯罪が「組織的」に行われることである。
人間社会が存在する限り、「犯罪が消滅する」ということはありえない。
次善の策は「犯罪が中枢的に管理されて行われる」ことである。
犯罪組織と警察が緊密な連絡を取り合い、ある程度共依存的関係を保つことができれば、国家体制の根幹を揺るがすようなカタストロフは回避できる。
犯罪を統御する組織的中枢が存在せず、さまざまな種類の犯罪が、さまざまな動機で、さまざまなタイプの人間によって、ランダムに行われるというのが警察にとっての「悪夢」である。
統制不能の犯罪はひとつひとつは微罪であっても、社会秩序そのものへの信頼を酸のように犯す。
だから、世界中どこでも警察は犯罪組織の存在を看過している(場合によっては支援さえする)。
それと同じ理屈で、公安警察は仮想敵国のスパイ組織が「ツリー状」の上意下達組織系列をもって活動することを切望するのである。
スパイというのは本質的にダブル・エージェントである。
情報戦の本質はビジネスと同じく「交換」だからだ。
自国の機密情報を流すことを代償にしてしか、敵国の情報を得ることはできない。
情報漏洩のもたらす被害と、それとの交換で獲得される情報によって予防できる被害を比較考量して、算盤が合うと判断したら、情報なんかいくら漏洩したってよい。
そう考えるのがスパイである。
公安調査庁の長官というのは「諜報活動の責任者」である。
そんな人間が「義侠心」やら「欲得ずく」のような人間的感情に基づいて違法行為を犯すはずがない。
ダミー会社の設立と登記移転は(少なくとも主観的には)諜報活動の一環として行われたと私は考えている。
総連本部の土地建物を公安が保全するということは、それが「金正日政権のこれらの問題に関する今後の対応方針や,朝鮮総聯に対する指示・指導等について,高度情報の収集」をより容易ならしめるという判断に基づいて決断されたのである。
それを直接公安調査庁がやったのではリークしたときに大変なので、緒方元長官という「ダミー」を経由したのである。
もちろん安倍総理大臣だってあらかじめご存じである。
このような重大な諜報活動が首相の暗黙の了承抜きで行われ、首相が新聞を読んで知ってびっくりした・・・というようなことだとしたら、そちらの方がよほど国政のありようとしては異常である。
「監視対象はできるだけ監視しやすい状態にとどめておきたいと願うのは公安として当然でしょう?」という常識的な言葉をどうして誰も口にしないのであろう。
私にはそちらのほうがはるかに謎である。

コメント (14)
>ジェームズ・エルロイが書いているように、警察の夢はすべての犯罪が「組織的」に行われること
この時事解説すっげぇぇぇ! と、つい日常言語。うっすら政治の影がチラつくのに、右翼も左翼も検察もマスコミも喫茶のおばちゃんも、道義がどうたら愛国心がどうたら主張するばっかり(のよう)。個人的な「感情」以外、現実の政治力学はちっとも浮上しません。そうか、また金か。年金隠しのフェイクかとか。
トップ・シークレットだったからですね。動きだしそうな検察はちょっとだけフェイントを? これでバカ右翼もバカ左翼もバカ・・・も意見の方向をかえますね。ほんとは一番バカなおれ自身に気がついてションボリ、いつものように。先生、どんなことがあっても100歳までは生きてください! だからまだまだお若いデス。フランス人には絶対にならないでくださいね!
投稿者: 誤読しらず
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2007年06月19日 11:04
日時: 2007年06月19日 11:04
この人たちの本音と建前の使い分け方がよくわかりません。
どうして緒方氏(公安調査庁)は、「自分も満州からの引き揚げ経験があって……」みたいな、明らかに不自然な動機を言う必要が、つまり世間をミスリードするようなことを言う必要があるんですかね?
総連側だって、公安調査庁元長官が自分たちに協力する意図はわかっているはずですよね。当事者はお互い納得ずくでやっているのに、世間には適当な建前を言ってごまかそうとする、その合理的な理由って何なんでしょう。わかる人だけわかってればいい、ということでしょうか。
それにしても、ミスリードされっぱなしじゃメディアの存在意義がないですね。というか、むしろ進んでミスリードに荷担している気がするんですが。
投稿者: moro
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2007年06月19日 13:25
日時: 2007年06月19日 13:25
ある高級レストランのオーナーが旧知の恩人を店に招いた。招かれた客はなけなしの金を持って店に現れた。
それを悟ったオーナーは、他の客に見えないように、食べた分の金額をこっそり握らせた。
どうせおごりなんだから、そんな回りくどいことせずにただにすればいい。そんなふうには思わないですよね。
ある種の情報に関しては、「わかる人だけわかってればいい」んじゃないですか。
それがわかる大人になりたいって思うわけですから。
投稿者: サモッチ
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2007年06月19日 14:47
日時: 2007年06月19日 14:47
と、そんな合理的な企みが哀れ頓挫してしまうのは、
やっぱ安倍内閣が
実は<よほど国政のありようとしては異常である>政府
だからなのでしょうか?
関係者が志を同じくして頑張れば簡単に成就しそうなのに・・・
ハテ?
投稿者: ハットリ
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2007年06月19日 15:11
日時: 2007年06月19日 15:11
うわ、さすが内田先生。元気が湧いてきました。
投稿者: 竜宮の乙姫
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2007年06月19日 18:04
日時: 2007年06月19日 18:04
まあ、一流新聞?は、読者は馬鹿で、スーパーのチラシしか見てないと思ってるのでしょう。納豆の値段とか、特売の即席ラーメンの値段以外に、新聞の読むところはあるのでしょうか。今回の、報道みたいな、猿芝居が漏れることも、鉄面皮のような会見じたいも、この国の限界なのでしょうか。ワシとしては、政治という悪の根源みたいなシステムに、誰か風穴をあけて欲しい。自民も民主もダメよね。朝日も読売も腰抜けよ。あたし、考えるの疲れるからやめよっと。
この方が、とりあえず幸せ。この、とりあえずが地獄なんだなあ。
投稿者: オヤジヤオ
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2007年06月19日 19:57
日時: 2007年06月19日 19:57
言われてみれば、納得な見解ですね。
日共の諜報活動とかオームの諜報活動とかの例考えれば、そうですよね…
投稿者: テン
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2007年06月19日 20:46
日時: 2007年06月19日 20:46
多分北~が東ドイツのようなことになると決まったのでしょうか?だいぶまえ朝鮮銀行は無くなりましたね。
投稿者: .おきつひめ
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2007年06月20日 00:25
日時: 2007年06月20日 00:25
何が悪いのか全然ピンと来ないニュースだったので、そう考えれば、何かわかる気がします。そのニュースが話題のときに、よくわからないまま友達に同調していました。先生の説を受け止める人が何人いるかは別として、マスコミ報道に流されるのは、こういうことなのですね。また、自殺者が出なければいいですね。
投稿者: プリオン
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2007年06月20日 09:21
日時: 2007年06月20日 09:21
今回のエントリは、いくらなんでもちょっと飛ばしすぎだと思いますよ。みなさん、なぜかかんたんに納得してしまっておられますが。もうちょっと冷静に考えたらどうなのかと申し上げたい。
日本の警察がある程度は暴力団を犯罪組織の統制装置として利用しているのはそのとおりであると思うし、もっともたちが悪いのはその枠におさまらない中国マフィアなどだとも言われています。
「総連本部の土地建物を公安が保全するということは、それが「金正日政権のこれらの問題に関する今後の対応方針や,朝鮮総聯に対する指示・指導等について,高度情報の収集」をより容易ならしめるという判断に基づいて決断されたのである。」についてですが、別に、この元長官へ売却しても、公安のものにはならないし、そんなややこしいことをしないでも、そんなに総連の土地建物が必要なのであれば、民間でなく政府の管理機構が落札すれば済む話ですね。リークしたときの「ダミー」だということですが、公安がこそこそやって、それを特捜が暴いたという国家権力の右手と左手が喧嘩するようなことが内閣総理大臣のお墨つきで同時におこなわれたとか、まず理解できない理屈です。
さらにこういうニュースがでました。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070621i106.htm?from=rss
「緒方元長官に1億円、東京地検が朝鮮総連の許副議長を聴取」
結局、この緒方重威、元公安調査庁長官は、総連が仲介役によろしく頼むと支払った4億円のうち1億円(その疑いが濃厚)をもらって、このアンダーグランドな取り引きに手を染めてしまったというのがもっとも単純で明解な状況なんではないでしょうか。
内閣が噛んでいるのであれば、それは単純に、わけのわからないことをやっているから、特捜いけ!という「国策捜査」なんだろうと思いますよ。
投稿者: KEN
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2007年06月21日 17:05
日時: 2007年06月21日 17:05
KENさん
この問題はおそらく、総連の頭を目に見えるものとして保全するために、差し押さえをどうやって逃れるかというところから生じたのでしょう。
ですから総連本部の建物を公然と公安調査庁が抑えたり、政府の管理機構が落札してしまったのでは意味がないのではないですか。本来、緒方氏の介在などもごく一部の人間だけが知る秘密でなければならなかったはずですね。
その点、こんなに簡単にばれるようでは、やり方としてはずさんだったという感じはしますけど。
それから、権力の右手と左手が喧嘩するなんてことは別に奇妙でも珍しいことでもないですよ。
ヒトラー政権やスターリン統治下のような「全体主義体制下」でも、そんなことはごく普通にあったことです。
どんな権力も野心や競争心を持った人間で構成されている以上、けっして一枚岩などではありえないし、トップがすべてを把握しているなんてことも不可能なことですから。
もちろん、今回の内田さんの説が真実であるかどうかまでは分かりません。しかし、なるほどと思わせるところはあるように思います。
投稿者: katsu
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2007年06月21日 20:46
日時: 2007年06月21日 20:46
KENさん、おひさしぶりです。最近なにか足りないと感じていたのは、ひとつにKENさんのコメントだったと気がつきます。ところで中国マフィアの件――東京に進出してひさしい某系団が抗争の末に支配下におさめ、闇の秩序は回復したとか。あやしいタクドラの信頼できない耳情報でした。
元長官の財布への金の流れは噂が先行した「ありえる」お話。でも、それではちっともワクワクしません。東京都民が大好きな石原氏はどう噛む・・・? もうお気づきでしょうけど、KENさんのご意見を批判していません。ただワクワクしないだけ。じゃ、やっぱり散髪屋さん系の、井戸端会議系の話を好むのかってアイロニーなら、ちょっとお待ちを。内田先生を「いつも正しい」教祖と考えてるわけじゃないといえば了解可能でしょうか。しかも大切な「恩師」であるといえば、ますます不整合? もちろん超個人的な意見orz。
投稿者: 誤読しらず
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2007年06月21日 20:48
日時: 2007年06月21日 20:48
誤読しらずさん、みなさん、お久しぶりです。
内田先生のブログは常々拝読しておりますが、コメントさせていただくのは久しぶりになってしまいました。
ひとつ先のわたしのコメントで明確な論理的あやまりがあるので訂正いたします。
あまりよく手続きも理解していないのですが、政府関係期間がオークションの末に取得という現象は今回のような売買が成立した末の話であって、その場合は総連の中身はどこかへ行ってしまうので、意味がない、内田先生が想定しておられた仮説は、総連に一見、利するようなかたちで競売を避け、総連の中身は現地点に温存し、かつ不動産は公安が秘密裏にコントロールする、ということですね。
中身が空の不動産だけ入手しても意味がないので、「そんなに総連の土地建物が必要なのであれば、民間でなく政府の管理機構が落札すれば済む話ですね。」という記述は、まったく意味をなさない文章として取消し訂正したいと思います。
さて、仮に、秘密裏に朝鮮総連本部の不動産が公安のものになったとして、
「総連本部の土地建物を公安が保全するということは、それが「金正日政権のこれらの問題に関する今後の対応方針や,朝鮮総聯に対する指示・指導等について,高度情報の収集」をより容易ならしめるという判断に基づいて決断されたのである。」
というロジックを無批判に受け入れるのには抵抗がありすぎます。
さらに、出資者のこともふくめ、すべての報道から判明している事実から判断すると、この公安諜報活動仮説は無理がありすぎる。もうすぐ判決がでて、オークションにかけられようとしているタイムリーな事象において「ごく一部の人間だけが知る秘密」とか「ずさんなやりかた」だとか、これ諜報活動だったと、すんなり納得してしまうのは厳しいですね。
さて、今後も日本国内の諜報活動は公安の目を盗みながら行われるのでしょうか??これを当り前の現象として片付けてしまうのであれば、権力の右手と左手が喧嘩する構造をまずなんとかしないと今回のような「日本国内の諜報活動」など成立しえないと認識すべきでしょう。
投稿者: KEN
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2007年06月21日 23:53
日時: 2007年06月21日 23:53
諜報活動というものは、当然のことながら他の部署や機関に対しても秘密で行われるものですね。
今から、どこそこの組織に対してだれそれが諜報活動を行いますからよろしく、なんてことを通知していたのでは諜報活動になりません。アメリカ映画などでも、地元の警察が不審人物を捕まえてみたら、じつは諜報機関の人間だったなどというのもよくある筋立てですね。ですから、そういうことは諜報活動にはつきものというべきでしょう。まあ、そこをうまくやるのが諜報機関の腕の見せ所なのでしょうけど。
権力機関どうしの抗争・対立みたいなものには、確かに非効率で馬鹿馬鹿しい側面もありますが、反面、ある特定の機関が暴走することを抑制するという側面もあるのではと思います。
なお、歴史上の独裁者の中には、そういう部下同士の争いをことさらに煽り立てて自分への忠誠競争をやらせた者もいます。
ただし、以上はあくまで一般論ですが。
投稿者: katsu
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2007年06月22日 16:38
日時: 2007年06月22日 16:38