麻雀帝王学

2007-04-02 lundi

土曜は浜寇来襲の日。
彼らが「浜寇」と凶悪な異名を取ることになったのは、一年ほど前のことである。
もともと甲南麻雀連盟浜松支部という、華夷秩序に基づくならば、芦屋に峨々たる中華本城を構える連盟のいわば「西戎」であるところの僻遠の地から乱入してきた浜松の諸君が、本部メンバーをさんざんにいたぶり、打ちのめしたあげくに、「がはは、太った頃にまた来るぜ」と『荒野の七人』のイーライ・ウォーラックのような捨て台詞を残して立ち去ったせいである。
私たちは深い屈辱のうちに身を震わせ、「ふたたび浜寇来たりなば、明石海峡に叩き落として、蛸とジルバを踊らせてやるぜ」と臥薪嘗胆の思いで、一途に雀道に励んで捲土重来を期したのである。
それから半年後、第二回は予定通りスーさんをコンビ麻雀で袋だたきにして戦績をイーブンに戻した本部支部の遺恨麻雀の、今回は雌雄を決する三回目である。
集った雀士は浜寇側7人(スーさん、オノちゃん、ヨッシー、オーツボくん、ヤイリくん、忍者ハットリくん、シンムラくん)、迎撃する本部側メンツは総長(「会長」だと「支部」になめられそうなので、今回から役職名を変更することにした)、だんじりエディター、釈老師、ドクター佐藤、ラガーマン、I田先生、ホリノ社長、かんちきくん、そして弱雀小僧。
たちまち三卓が立ち、「がるるる」という野獣のような咆哮とともに熾烈な下克上の争いが午後4時から深更まで展開した。
結果は勝率で6勝6敗のイーブン(形式的には本部の7勝なのであるが、このときの卓には浜松支部のメンバーが入っていなかったので、対抗戦戦績としてはノーカウントとすることにした)、勝ち点は浜松支部が上回り、今回は一応「ドロー」ということで収めて、次回晩夏の「城崎温泉地獄麻雀」で決着をつけようではないかということになった。
それにしても最後の最後一勝をあげて本部の体面を救ってくれたのが弱雀小僧(最後の半荘に飛び込んできてプラ51)であったということがまことに面妖である。
勝ち頭は今回もヤイリくん(プラ117)。
ヤイリくんはふだん浜松では「浜松の弱雀小僧」と呼称されているそうであるが、なぜか芦屋に来ると大勝ちする。
弱雀小僧が二人集まると地軸が歪むのかもしれない。
総長(プラ37)と支部長のスーさん(プラ35)は3位、4位でとりあえず面目を保つ。
今回5戦2勝で総長もようやく勝率を2割5分に戻した。
一年はまだ長い。最後に笑うのは誰か。
午前 1 時過ぎに全員退去するが、かんちきくんが(例によって)終電を逃して「居残り佐平次」となる。
かんちきくんは若いに似ず、例会のたびつねにキックオフ前に会場に現れ、お掃除、お片付け、先輩へのご挨拶、点数表の管理など、「雪かき仕事」に真摯に取り組む姿勢が総長の目に止まり、今般総長の壟断により、総長の引退後には「甲南麻雀連盟二代目総長襲名」を許すことにした。
もちろんそのためにはそれまでに阪神間のどこかの大学の教員ポストをゲットし、甲南の地に居住していることが襲名の条件なのであるが、果たしてかんちきくんはこの苛烈な条件をクリアできるであろうか。
しかし、それくらいの重石に耐えねば、甲南麻雀連盟総長の看板は張れないのだ。
がんばれ! かんちき。

日曜は朝食をとりつつ、かんちきくんに「麻雀帝王学」を講じる。
麻雀は基本的に半荘終了時に、手元に3,8000点の点棒があれば、80%以上の確率でトップを取ることができる。
つまり配給原点からわずかプラス13、000点でよいのである。
この13,000点をどのようにして積み上げるか。
理想的には東場終了時に27,000点〜2,8000点をキープしていることが望ましい(それ以上の勝ちはむしろ他の打ち手の警戒心を高める)。
だから東場では勝負をしかけない。
これは競馬と同じである。
勝負時は第四コーナーを回ってから。
東場では「振り込まない」と「安手で早あがり」を最優先する。
ただし「振り込まない」ことと「安手で早あがり」することはしばしば矛盾する。
「安手で早あがり」のつもり翻牌を早泣きしたり、混一色ねらいを公開すると、結果的に立直をかけられて手詰まりになって放銃することが多い。
「振り込まない」ためには泣かないことがもっとも効果的である。
つまり、東場の手作りの基本は「門前・ダマ聴・安手」である。
しかし、南場は一転してみんな奇手を仕掛けてくる。
だから、南場でオーソドックスな「メンタンピン狙い」をしている打ち手は絶好のターゲットになる。
オタ風の単騎待ち、双碰聴、引っかけは日常茶飯事。
だから、南場では中盤以降の幺九牌切りは東場よりも危険度が高いのである。
この中で、南二局、南三局を抑える。
これが必須である。
「南の二局、三局で連続上がりしたものは90%の確率でトップを取る」というのは私が 40 年にわたる雀歴で得た確信である。
理想的には28000点持ちで迎えた南二局で「風牌符ハネと他人のリー棒」で2,300点、南三局で「七対子ドラ2」6,400点くらいで逃げ切るというのが勝ち方としてもっとも効率がよい。
「効率がよい」というのは「コストパフォーマンスがよい」と言うことであるが、この場合の「コスト」というのは「労力」のことではない。
「ツキ」のことである。
「ツキ」は「ツキを使わずに上がる」と(有給休暇と同じで)、一定時間内なら「繰り越し」することができる(一定時間を過ぎると使えなくなるという点でも有給休暇と同じである)。
繰り越して貯めた「ツキ」を一気に放出せねばならぬとき、「ツキ」以外にいかなる味方もいない状況に、半荘のうちに一回私たちは必ず遭遇する。
「ツキ」はそのときのために取っておくのである。
まだまだ若いかんちきくんには理解の及ばぬことも多々あろうが、先輩の助言を拳々服膺して、雀道修行にますます励むように。
May force be with you 「雀力が君とともにあらんことを」
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