極楽合気道からの帰還

2007-03-26 lundi

金曜の朝から日曜の夕方まで恒例の合気道春合宿。
合気道の合宿は稽古・風呂・飯・寝る・稽古・風呂・飯・寝る・稽古・風呂・ビール・飯・寝る・宴会・寝る・・・という極楽パターンなので、知的活動に供せられる大脳部位が合気道関係に限定されており、基本的に三日間「文字」というものを見ない生活である。
当然、パソコンなどという不粋なものを合宿所に持ち込む人間はいない。
むかし、東大ボート部の合宿の話を読んだ記憶がある。
ボート部の合宿所は戸田だかどこかにあって、そこで部員たちは起居している。
合宿といっても学期中のことなので、早朝練習のあと、昼間は大学にでかけて授業に出る。帰ってからまた練習。
最初はみんなまじめに授業に出ているのだが、そのうち大儀になって、合宿所の万年床から這い出せなくなる。
最初は教科書を開いてもみるのだが、しばらくすると教科書がむずかしくて理解が届かなくなる。
しかたがないので、新聞を読む。
しばらくすると新聞に書いてあることが理解できなくなる。
しかたがないのでマンガを読む。
しばらくするとついにマンガに描いてあることまで理解できなくなる。
ここまでくると一丁上がりで、ボート漕ぐ・風呂・飯・寝る・ボート漕ぐ・風呂・飯・寝る・・・・というヒューマン=ボート・バイオメカノイドが誕生するのである。
稽古が佳境に入ると、新聞が読めなくなり、テレビがうるさくなり、やがてマンガさえ読めなくなるというのはほんとうである。
稽古が心身をピュアにするので、ノイズ耐性が弱まるのである。
合気道は身体情報の送受信感度を最大化すること自体を目的としているので、三日も続くと身体感度がデリケートになってくる。
だから、テレビのようなノイズの多いメディアに触れると、「皮膚が痛く」感じるようになるのである。
私たちの投宿するホテルは「貸し切り」にしてもらっているが、それは見知らぬ人がそばに混じると、その人たちの発信する周波数の違う情報が「ノイジー」であるというよりはフィジカルに「痛い」からである。
身内だけ40人ほどが60時間ずっと同じ空気を吸い、同じ食べものを食べ、同じ身体操作を繰り返していると、一種の「多細胞生物化」が出来上がる。
合気道の稽古自体が「自我の解体・他者の受け容れ・複素的身体の構築」というプロセスであるから、「同質化」「シンクロニシティ」の強化のされかたは通常よりはるかに速く、深い。
稽古以外の時間でも、笑うときは40人が一斉に笑い、息を呑むときは40人が一斉に息を呑むようになる。
だから、最後の昼食を食べているころは、ぱくぱくと「カレーを食べている」のが私なのか私のとなりにいるウッキーなのか前にすわっているクーなのか背中合わせにいるドクターなのかもうよくわからなくなる。
自他の境界線が融解して、私が見ていないものが「見え」、私が聞いていない音が「聞こえ」、私が触れていないものが「わかる」という境位が合気道の、というよりひろく武道修行のめざすところなのである。
だからこそかつては戦場における武勲がそのまま治国平天下の能力に読み替えられたのである。
今回の合宿で神戸女学院大学合気道部草創期から16年にわたって活動を支えてくださった松田高志先生が四段に昇段した。すばらしい審査の演武であった。
審査前のストレスはたいへんだったらしく、審査の終わった夜は赤子のように身体を丸めて深い深い眠りのうちで熟睡されていた。お疲れさまでした、松田先生。
今年卒業の四年生たち白川さん、中瀬さん、前川さんが二段昇段。おめでとう。卒業しても稽古に来てね。
新幹部学年の石田さん、重松さん、隅田さん、河内さん、福井さん、ウッキイ道場の田中さんが栄光の「ザ・ブラック・ベルツ」入りを果たす。みなさん、おめでとう。
甲南合気会最初の「女性初段位」の栄誉は谷尾さんがゲット。女学院OG以外での最初の黒帯である。
女学院合気道部の新部長は石田さん、副将は重松さん、部長はサキちゃん。四月から新体制である。一年間がんばってください。
永山主将、一年間ご苦労さまでした。森田さん、亀ちゃん、ありがとう。ナカジマ、マナベ、コニーの留学組も早く帰って稽古に来るのだよ。
永山主将は最後の仕事として「神戸女学院合気道部部歌」を制定し、1-3年生全員で披露してくれた。
これはサキちゃんが「ブカがほしい」と言い出したので出来たものだそうである。
サキちゃんは一年生だから「部下」がいないのは当然であるが、ほしいのは部下ではなくて「部歌」だった。
以前は「ブキがほしい」という部員がいたので、「どのような武器がほしいのか」訊いたら「部旗」のことだった。
紛らわしいことである。
部歌は二種類あり、いずれも「振り」付きで、とくに「第二部歌」の最後には「Vey,Vey,Ho」は多田先生の最近のお稽古に出てないと意味がわからないというたいへんマニアックなリフレーンがついていた。
末永く歌い継いでいただきたいものである。
合宿の全行程を仕切ってくれたウッキーとドクター佐藤と永山主将に改めてお礼を申し上げます。みなさん、どうもありがとう。
--------