納豆疑獄とメディアの凋落

2007-01-21 dimanche

あら、納豆がダイエットに効果的というのは「捏造」だったですね。
テレビで「納豆を一日二個食うと痩せる」と言っていたので、本当だと思ったという善男善女のみなさんはこの機会に「メディア・リテラシー」ということの必要性を学ばれたということでよろしいのではないでしょうか。
納豆、身体にいいし。
テレビは末期であるということをつねづね申し上げているが、この事件は「もう最末期の症候」と申し上げてよろしいであろう。
今回の事件について、関西テレビの編成局長は記者会見で、どこのプロダクションが製作したのか「知らない」し、関西テレビのプロデューサーが捏造を承知していたのかどうかも「知らない」と答えた。
そうなんですか。
テレビ番組は勝手に下請けの製作会社が作っていて、放送している局は誰が何を作っているのか知らないし、内容の真偽を検証するシステムもないまま垂れ流している、と。
当の編成局長がそう言っているのであるのであるから、そうなのであろう。
この納豆番組については番組放送前に大手スーパーに対して、納豆業界から「近日中に納豆が大量に売れますからおおめに発注しておいてください」という告知があったらしい。
この番組ひとつで納豆業界が短期間に莫大な利益を上げるということを関係者たちは見越していたということである。
「近いうちに納豆が爆発的に売れますよ」という「インサイダー情報」はもちろんテレビ側から業界に流れた。
この事前の情報提供によって納豆業界は材料の仕入れとか生産ラインへの増員とかで急増する需要に対応する準備ができたわけである。
これまでも番組を面白くするために金を払って暴走族に暴走させてみたり、犯罪の現場を撮影したり、別人になりすましてインタビューを受けたりということは何度もあったが、テレビが嘘のデータを流すことで、特定の企業が短期間に巨額の利益を得るというようなことはなかった。
テレビ放送のせいでたまたま業界が利益を得たというのではなく、利益を得ることを業界が放映前にすでに見込んでいたということになると、これはある種の詐欺である。
おそらくこの事件はテレビが意図的に視聴者に虚偽の情報を伝えて、巨額の利益を一部の民間企業にもたらした本邦最初のケースである。
新聞は「真実よりも視聴率がだいじ」とか「またもやらせ」というような定型句で報道しているが、これは「番組関係者に偽の失恋経験談を語らせる」というようなフェイクと同列に類別できる事件ではない。
テレビが主体的にコミットした犯罪である。
ことほどさようにテレビの「メルトダウン」は急速に進行している。
私たちが事態の深刻さに気づかないでいられるのは、テレビ自身は決してテレビの衰退に言及しないし(当たり前である)、新聞も言及しないからである(毎日以外の新聞はテレビ局を系列会社に持っている)。
テレビは広告出稿の激減による制作費の切り下げとスタッフの劣化については何も報道しない。
新聞は新聞購読者の減少や、広告出稿の減少や、新聞の社会的影響力の低下について分析しない。
メディアはメディア自身の没落ついては決して報道しない。
私たちはメディアの没落の進捗をメディアが「何を報道しないのか」を吟味することを通じて推察するしかない。
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