土曜日。池上先生がいらしたので、芦屋川のスタジオ・ベリーニで三宅先生の奥様と長男のマサキくんと四人でご飯。
どうして三宅先生ご本人がいないかというと、三半規管の具合が悪くて、眼がくるくる回るので、ご飯が食べられなくなってしまったのである。
気の毒なことである。
三宅先生の分までばりばり食べて、積年のご恩を返す。
ぱくぱく。
池上先生は東北からのツァーの途中。
ひさしぶりに池上先生の温顔を拝して、深みのあるバリトンに聞き惚れる。
池上先生の治療原理は「エビデンス・ベースト」のちょうど反対の「リザルト・ベースト」(日本語では「結果オーライ」という)で、「どうして治ったのか、わからないけれど、治ったなら、ま、いいじゃないか」というものである。
この結果オーライ治療術の基本にあるのは、「人間は人間のことをよくわかっていない」という知的節度である。
私はこの知的節度が科学性ということの別名だと思っている。
池上先生の術理を説明されても、ふつうの治療者は「何を言ってるんだか、よくわからない」はずである。
「わからない」から「池上先生がおっしゃっているのは、こういうことかしら・・・」という自己判断で三軸修正法を施術することを余儀なくされる。
この「自己責任による術理の解釈」という条件づけが治療者に節度を要求する。
「こうすれば絶対治ります」というような教条主義がはびこることを池上先生はそうやって防ごうとしているのであろうか・・・とステーキを囓り、ワインをごくごく飲みながら考える。
三宅先生ご一家のみなさま、今回もごちそうさまでした! 池上先生「きりたんぽ」と比内地鶏と尺八の CD とご本ありがとうございました。
それにしても山本画伯といい三宅先生といい、私のまわりの健啖家たちが次々と食餌制限に追い込まれてゆくのを見ると、私のように彼らに「コバンザメ」することで食生活を富裕化してきた人間としては、行き場を失ったようでまことに寂しい。
お二人の一日も早い回復を祈念すること切なのである。
日曜は「無印良品家の本」の取材で橋本麻里さんご一行が来る。
「家」についていったい私に「何を訊くの・・・」と頭上に疑問符を点じつつも、訊かれるままに、「私は土地の個人所有を認めない」とか「家はセミ・パブリックな空間であるべきだ」などの持論を語る。
そう言っているうちに、「平川克美くん来阪奉祝麻雀大会」の呼集に応えた雀友たちが続々と参集し、それぞれ勝手に冷蔵庫を明けてビールを冷やしたり、納戸から雀卓と座椅子を持ち出して並べたり「わがもの顔」にふるまっているのを見て、橋本麻里さんも「なるほど。セミ・パブリックとはこういうことなのね」と納得されていたようである。
麻雀の戦績については、多くを語りたくない。
東一局、江さんが私から九萬、一萬、六萬、二萬をポンして、裸単騎になる。
私は混一色一並刻ドラ1、間七筒で面前聴牌。
当然勝負の立直。
そして二巡目に江さんの待ち牌である四萬(ドラ)を引いてきた。
ま、まさかのドラの裸単騎?
背筋に悪寒が走ったときは時既に遅く、三倍満。「がはははは」という江さんのハスキーな笑い声はそのあと4時間ほど私の脳裏を去らなかった。
去年の10月に江さんに振り込んだ「西ドラ6」と今年の春にI倉くんに振り込んだ「立直一発純チャン三色ドラ3」とともに、この四萬は私の「トラウマ」として末永く記憶されるであろう。
なお、この三倍満でトロマティゼされたので、先般画伯の質問に「清一色」は「食い下がりなし」というローカル・ルールでゆくことを確認したが、これを撤回して、全国ルールに合わせて「食い下がり一翻」とする。
「食い下がりなし」は三槓子、三連刻、三色同刻、対対和、三暗刻(以上、二翻)小三元、混老頭(以上四翻)。
以上連盟会長通達であるので、周知徹底されんことを期す。
かんきちくんがエクセルを使った点取り表を作成してくれたので、全員の勝ち数、勝率、半荘平均勝ち点などが一瞬でわかるようになった。
ちなみに2006年1月から11月までの戦績は。
勝率
第一位 ラガーマン 0.357
第二位 連盟会長 0.318
第三位 画伯 0.317
第四位 ドクター 0.311
第五位 歌う牧師 0.269
第六位 ゑびす屋 0.241
第七位 だんじりエディター 0.234
第八位 老師 0.227
第九位 泳ぐ英文学者 0.222
第十位 かんきちくん 0.161
というものである。
勝率的にはホリノ社長(0.375)、シャドー影浦(0.311)も高率なのであるが、規定打数(最高半荘参加数の三分の一、ということを会長通達で決定)に達していないので、参考記録にとどめる。
それから「越後屋」さんは先日門戸厄神駅頭において発作的に「ゑびす屋」さんに改名された(ゴッドファーザーは渡邊仁さん)。
理由は不明だが、彼の相貌には「ゑびす屋」こそがより相応しいであろうと、その場で満場一致で改名が決定された。
本人には事後承諾となったが、甲南麻雀連盟における「通称」の決定権は専一的に会長に帰属するので、異議申し立ては受理されない。
なお残る二冠は
勝ち数
第一位 連盟会長 21勝
第二位 ラガーマン 15勝
第三位 ドクター 14勝
第四位 画伯 13勝
第五位 だんじりエディター 11勝
半荘平均勝ち点
第一位 ラガーマン 8.83
第二位 連盟会長 6.97
第三位 ドクター 4.11
第四位 画伯 3.44
第五位 だんじりエディター 3.13
というわけで、このところ絶好調のラガーマンが二冠王。
4月以降ぼろぼろとは言いながら、1 月- 3 月期に圧勝した連盟会長がかろうじて勝ち数において「雀荘主人」のアドバンテージを生かしてトップを保持したのである。
さて、2006年の年間チャンピオンの栄冠は誰の上に輝くのであろう。
前回、復活宣言を残して去った老師の去就が注目されるのである。
月曜は大学でクリエイティヴ・ライティングの授業。
今回は「語り手の性を入れ替えてテクストを書き換える」という宿題を課して、「性の交替」が文章にどのような影響を与えるかを検証してみた。
たいへんに興味深い、学会的にも「あっと驚く」発見があったのであるが、書き出すたいへんに長くなりそうなので、これは『女は何を欲望するか』の文庫版に独立した論文として採録することにする。
火曜日はゼミが二つ。
三年生のゼミが「癌」で、大学院のゼミが「追っかけ」。
どちらもたいへんに面白かったのであるが、詳細はいずれまた。
そのあと梅田に出て、『硫黄島からの手紙』の試写会。
終了後、ウッキー、タニオさん、イワモト秘書、イノウエ弁護士と連れだって、新梅田食堂街にて熱く語る。
よい映画である。
この映画については時間があるときにじっくり語りたい。
水曜日はオフ。
京都の大谷高校での教育研修会の講師にお招きいただいたので、そちらに出かける。
大谷高校は「お東さん」の学校であるので、校長先生の真城義麿先生も保護者会会長の安倍彰雄さんも浄土真宗のご住職である。
加えて、みなさんウチダ本の読者。
ということは端から私に「大暴れ」を期待してお呼び下さったということである。
期待してくださっている以上、それだけのことは勤めさせて頂かねば・・・ということで90分間教育についての所見を述べさせていただく。
講演後、校長室で、真城校長を囲んで、今後の日本の教育はどうあるべきかについてしばし歓談。
真城校長は浄土真宗の宗教家らしいまことに闊達にして理知的な紳士であり、大谷高校の人々がこの校長を中心にして新しい教育的拠点を構築しようとしている熱意が熱く感じられた。
私のような人間を呼んで保護者の前で「大暴れ」させるというその寛仁大度からも大谷高校の度量の深さは知られるのである。
このところ本当に仏教関係者とのご縁が深い。
地域における霊的センターとしての寺院をケルンにして日本社会の地殻変動は遂行されるのではないか・・・という私の予測はどうやらかなり確度の高いものとなりそうである。
がんばれ! 仏教
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(2006-11-16 09:40)