たいへん忙しい金曜日

2006-02-25 samedi

忙しい一日。
朝9時から院試の試験監督。
10時から12時まで「現代GPのためのWG」の会議。
そのあと真栄平先生と岡田山の風水と西宮神社と傀儡師と文楽と紀州鯨漁の関係、後醍醐天皇と遊行の民の関係と墨家・フリーメーソン的自律組織の構造的差異についてたいへん興味深いお話をする。
真栄平房昭先生は篤学の近世史家であるが、とにかくどんな話題でも近世史の「そういえばこんな話が・・・」に結びつける卓越したリンク系知性の人である。
私も that reminds me of a story の人であるから、ふたりで「そういえばこんな話が・・・」と競って繰り出していると話が終わらない。
前に総文叢書で「対談本」をという企画が出たことがあって、そのときに私が真栄平先生に日本の歴史を伺うというスタイルの対談をしてみたいと申し出たのであるが、真栄平先生の国内留学とかちあってしまって実現しなかった。
いずれ機会があったら、これはぜひやってみたい仕事である。

英語の試験が終わって解答用紙が来たのでさくさくと採点をして、博士前期課程と後期課程の面接試験。
学部の学生の卒論の評価と大学院での研究に対する評価では採る基準が違うので、どなたにもいささか手厳しいことを申し上げる。
私が訊きたいことは「学術性とは何か?」ということである(実際はそんな堅苦しい問いかけはしないけれど)。
それは自分の主観的なバイアスを排除するためにどのような「補正装置」を持っているかという問いに置き換えられる。
もっと端的に言えば「自分のバカさ」を検知するためにあなたはどういう方法を持っているか、ということである。
ほとんどの学生は「自分のバカさ」というのを知識の量や学術的スキルの不備のことだと思っている。
あのね、それは違うよ。
それだったら、数量的に計測できる。
「***読んだ?」「読んでません」「・・・って知ってる?」「知りません」
というような問いはいくら重ねても「バカさ」の検出には至りつかない。
無知というのは「データの欠如」のことではなく、「予断の過剰」のことだからである。
何かを知らないというのは怠慢の結果ではなく、努力の成果である。
そのことを「知るまい」とする努力なしに人間は無知でいられることはできない。
それを知ることが「予断のスキーム」を破綻させる可能性があるとき、私たちはそれを「知らずにすませる」ために努力を惜しまない。
人間というのはふつうに思われているより遙かに勤勉な生物なのである。
だから「バカさの検出」というのは、「自分がそれを学ぶことをいちばん怠っていることとは何か?」つまり「自分がそれから目を逸らすためにいちばん努力していることは何か?」という問いのことなのである。
だからおのれのバカさの検出は、「どうして私は〈これ〉を知ることを欲望しないのか?」というひとつ次数の高い問いのかたちをとる。
この問いの仕方を知った人間はそのあとおのれの「予断」を解体するエンドレスの自己変容プロセスに身を投じることになる。
その問い方を知らない人間はどれほど博引傍証強記博覧を誇っても死ぬまで「バカのまま」である。
「バカの壁」は「私はどのような仕方でバカなのか?」という問いを立てることのできる人間とできない人間の間に巍然として屹立しているのである。

院試のあとは聴講志願者の面接。
20人近い志願者にひとりひとり面接をする。
遠く東京から来た人が3人いる。
「通うんですか?」と訊いたら、「引っ越します」という人がいた。
剛胆というより無謀な生き方であるが、私はそういう無謀さを深く愛するのである。
「弟子にしてください」とがばっと礼をする人もいるし、「なんかあ、ちょっとお、おもしろそうかなとおもって、来てみたんだけどお」というような人もいる。
さまざまである。
全員合格。
これまでの居残り組が渡邊仁さん、川上 “歌う牧師” さん、シャドー影浦、かんきちくん、エコマさん。
なんと居残り組5人のうち4人が「多田塾甲南合気会」と「甲南麻雀連盟」の会員なのであった。
おそらく昨日お会いした2006年度の聴講生のうちの何人かはこのどちらかの会員にいずれ登録されて、一年後には畳の上を転げ回ったり、「センセイ、すみません。それロンです。チーロンパ」というようなことを言っているのであろう。
そういえば、甲南麻雀連盟の創立会員5人のうち江さん、ドクター、越後屋さんの3人までが初代の聴講生ではないですか。
私は大学院で学問を教えていたのではなく、趣味趣味生活の仲間を集めていたのであった。

面接が終わってソッコーで家に戻り、ドクター、江さん、釈老師、越後屋さんと「引越祝い麻雀大会」へ。
芦屋麻雀ガールがコロッケとおにぎりを作ってスタンバイ。
シャンペンで乾杯するやただちに開戦。
画伯が来ると7人になるから2卓にしましょうというので「金曜の夜にひとりでぼおっとしているかもしれない近場の会員」に電話をしてみる。
さいわい「栄光の左ウィング」が芦屋で散髪をしているところをゲット。
わいわい騒いで午前二時まで。
引越祝い麻雀大会は老師が3戦3勝と圧勝して、勝率を5割に乗せる。
麻雀ガールがよろこびの初勝利(その報を携帯メールで聞いた同じく未勝利だった神戸麻雀ガールが「ぎゃー」というメールで応じる)。
江帝国の凋落は重く、五割を誇ったウチダも今回はアウェーで調子に乗ってワインをがぶ飲みして酔っぱらいクダマキ麻雀でボロ負け。
第一四半期の決勝まであと残すところ例会は1回のみ。
果たしてウチダは勝率一位、勝ち数一位、勝ち点一位の三冠王を達成するか?
それとも老師に勝率で抜かれてしまうのか?
弱雀小僧、越後屋さん、神戸麻雀ガールはついに未勝利で終わるのか?
最後まで目を離せない甲南麻雀連盟の春である。
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