6月26日

2003-06-26 jeudi

昨日はVIAの演武会があった。
毎年恒例の行事であるが、これはアメリカのスタンフォード大学の学生たちの「アジア研修プログラム」の一環である。
スタンフォードでは、学生たちに1年間アジア諸国の学校で英語の先生をする「キャリア」プログラムを組んでいる。彼らが赴任地に到着する前に、中継地である日本で、関学と本学のESSが学生たちのためにウェルカムパーティをする。その折りに、本学では例年茶道部、華道部、能楽部、箏曲部、そして合気道部、杖道会が「伝統芸能」の一端をご披露することになっているのである。
体育の合気道の授業の最後の方を見ていただいてから、松田先生、ウッキー主将、森川副将、そして私が演武をする。(ウッキーはでずっぱりでへろへろだった。みなさんどうもご苦労さま)
そのあともう少し時間をいただき、体育館に移動して杖道形(着杖から乱留まで11本)をウッキー仕杖、私が打太刀でご披露する。
ついでにスタンフォードの学生諸君のアジア諸国での無事と破邪顕正を祈願して古流の居合を数本抜いてご奉納。
杖と居合の説明も演武のあとの質疑応答も英語でしたのであるが、武道の話題になるとなぜか英語がよどみなく出てくるというのがまことに不思議である(フランス語もそうだな)
とりあえずアメリカの学生さんたちはたいへんに興味深くご覧頂けたようで、暖かい拍手を賜った。
Have a good time in Japan!

そのまま稽古に突入。
本年度新入部員が六人参加。(うち本日入部が二名)
受け身もままならぬ新人ばかりだと通常は稽古になりにくいのであるが、こういう時こそ、上級者にも集中と工夫が必要な「気の感応」中心の稽古プログラムを組む。
新人が多い時期には、新人もすぐにかたちをまねするだけは出来るが、実は非常に奥が深くて上級者も簡単にはできない技を集中的にお稽古して頂くことにしている。
昨日やったのは「気の感応で導く入り身投げ」。
接触点を最小化することによって、受け身の身体がどのような「伸び」を示すようになるか、それを感じてもらう。
そのほか「拍子に乗る」「拍子を外す」「浮きをかける」といった、出来そうで出来ない身体運用(というよりは「感受性の研ぎ澄まし方」)をいろいろとやって頂く。
気分よく汗をかいて帰宅。

ビールを飲んでだらだらしていたら角川のY本くんから電話。
『ためらいの倫理学』に続いて、『「おじさん」的思考』『期間限定の思想』『女は何を欲望するか?』などの近著を文庫化したいというご要望である。
そんなこと言っても、みんな去年出たばかりの本であるから、そう簡単にはゆかない。
『私の身体は頭がいい』は文春文庫からすでに「予約」がはいったというホームページ日記の記事を読んでY本くんもちょっとあわてたようである(そんな予約が入っていたことを私自身はころっと忘れていたので、あぶなく角川と文春にダブルブッキングするところであった。何でもホームページ日記には書いておくものである)
洋泉社の説教本(タイトル変更!)が内容的には「おじ的」のラインなのだと言うと、それ「予約」させて下さいと「まだ出ていない本」の文庫化まで計画している。
ずいぶんと気の早い方である。
ウチダ自身は一冊でも多くの本が読者に読まれることを望むだけであるので、文庫化に反対する理由はないが、文庫化されると簡単に絶版になって、却って入手しにくくなるケースもあるらしい。
長い目で見て、ひとりでも多くの読者と出会えるのはどうすればよいのか。
私に知恵があるわけではない。
とりあえずウチダは何でも「ご縁」で済ますことにしている。
文庫化されたせいで読む人が増えればそれも「ご縁」、単行本として長期にわたって読み継がれることで読む人がふえればそれも「ご縁」。どちらに転ぶかは、それぞれの本が宿命的に刻印された「ご縁」の効果と考えることにしている。
増補改訂決定版『ためらいの倫理学』(オリジナルに四篇の新曲ボーナストラック付き)文庫本は高橋源一郎さんの「解説」を冠して八月下旬に発売である。買ってね。