宗教学者で僧侶の釈徹宗先生と「聖地巡礼」の旅を続けている。
もう十年以上前に、神戸女学院大学で「現代霊性論」という授業をしたのがきっかけである。宗教についてのさまざまなトピックを二人で掛け合いで論じた。学期の終わりに、授業で言及された仏閣仏像の現物を学生に見せようということになって、釈先生の解説を伺いながら、東寺の立体曼荼羅や三十三間堂の千手観音などを拝観してから南禅寺前で湯豆腐を頂いた。先達に導かれて聖地を巡歴することの楽しさをこの時に知って、そこから「聖地巡礼」のシリーズ企画が始まった。
大阪上町大地、奈良の三輪、京都紫野、熊野古道、長崎隠れキリシタンの旅、対馬と続き、今回はご縁があって紀伊田辺を訪れた。
この地の真言宗高山寺は合気道開祖植芝盛平翁のお墓がある「合気道家の聖地」である。すぐ近くには南方熊楠のお墓がある。田辺の生んだ三大偉人(もう一人は弁慶)のうち二人が一つのお寺の中に並んでいるのである。よほど引きの強い聖地に違いない。
お墓参りをしてから、ご住職から開山由来を伺うと、ここは高野山から龍神山を経由して、神島(かしま)に至る「龍脈」のキーポイントだそうである。伝承では、龍神山から天狗が神島へ飛来する途中で、高山寺の松の木で休憩するという。
墓参の翌日は船から上陸禁止の神島を眺めた。島には熊楠が守った貴重な植物相が保存されている。昭和天皇が熊楠の案内で粘菌を見るために訪れたことで知られている。かつてこの島に営巣していた鵜の群れは、島を追われた時、まっすぐ高山寺の松の木に向かったそうである。空中にも「龍脈」が通っているのかも知れない。
ひさしぶりに俗塵を離れて、聖地の霊威に打たれてきた。今の日本では、ときどき浮世離れしないと身体が持たない。
(2021-07-23 15:00)