年を越してしまいましたが、恒例の重大ニュースを発表します。
なんか、毎年同じようなことばかり書いているような気がするけれど、ご容赦ください。
今年もたくさん仕事をしました。
(1)講演 2月に台湾で村上春樹について講演。台湾の淡江大学というところに村上春樹研究センターという世界でただ一つの村上春樹の専門研究機関があります。そこのお招きで「村上文学の系譜と構造」というお題で講演をしてきました。今回強く感じたのは、台湾の「勢い」です。飛行機で関空に帰ってくると「がらんとしていて、勢いがない」ということがしみじみ実感されます。90年代まではこんなことを感じたことはありませんでした。国力が衰退局面に向かっているということは統計的な数値を見なくても、こういう海外とのインターフェイスに立つと、ありありとわかるんですね。
それから、沖縄でのSEALDsRyukyu の主催の講演を皮切りに、真言宗愛宕薬師フォーラム、大学コンソーシアム、日本演出家協会、藤沢の朝カル、大阪の朝カル(釈徹宗先生と)Again10周年(平川克美君と)、岐阜県人会、愛媛憲法集会、東灘九条の会、神戸女学院大学(高橋源一郎さんと)、京都精華大学(矢作俊彦さんと)、白百合女子大、東京自由大学、神戸女学院中高部、羽黒村(内山節・星野文紘ご両人と)、本願寺北御堂(中沢新一・釈徹宗ご両人と)繁昌亭(高島幸次先生、桂春之輔師匠ご両人と)、ルチャ・リブロ、北星学園、信州岩波講座(加藤典洋さんと)、隆祥堂(山崎雅弘さんと)、公共政策ラボ(平松邦夫、釈徹宗ご両人と)、恒例の韓国講演ツァー(光州と釜山)人体科学会、鈴木大拙シンポジウム(姜尚中さんと)など実にたくさんの講演や対談を、さまざまな方をお相手に行いました。
政治の話、宗教の話、文学の話、武道と能楽の話が多いのはわかるとして、「地方移住・地方再生」についての講演依頼が出て来たことが時代の流れを感じさせます。
(2)出版 今年出したのは、単著が『ローカリズム宣言』、『街場の天皇論』、『日本の覚醒のために』。共著が『変調「日本の古典」講義』(安田登さんと)、『アジア辺境論』(姜尚中さんと)、『聖地巡礼コンティニュード』(釈徹宗先生と)『慨世の遠吠え2』(鈴木邦男さんと)。文庫化されたのは『困難な成熟』、『内田樹による内田樹』、『直感はわりと正しい』(『内田樹の大市民講座』を改題)。ドクター佐藤の『身体知性』にも巻末対談で参加しました。
相変わらず「出し過ぎ」でした。2018年はこんなことにならないように、仕事をできるだけ控えるつもりです。単著は年1冊で十分ですよね。
(3)ラスペツィアでの多田先生の気の錬磨講習会に初参加。
凱風館のみなさんと連れ立って7月9日から18日までかけてイタリアへ行ってきました。呼吸法、座禅、気の感応、剣杖、倍音声明などふだんの体術中心の稽古とは違う静かな稽古を五日半。かすかに潮の香りを運ぶ微風が吹き込む体育館での座禅と倍音声明の時間が僕はとくに好きでした。毎晩美味しいイタリアンを食べて、ワインを飲み、海水浴にも二度行きました。多田先生と同じホテルでしたので、ほぼ毎朝先生と朝ごはんを差し向かいでご一緒して、ずいぶん長い時間お話をうかがうことができたのも日本では得難いまことに貴重な時間でした。
(4)ハングル書堂始まる。11月の韓国講演ツアーに同行する「修学旅行部」(これも今年からスタートした凱風館スピンオフです)の皆さんと一緒にハングルを学ぶことになりました。もう何年も韓国に通っているのに「ハングルが読めない」のでたいへん苦労をしておりましたので、伊地知さんという先生を得たことを奇貨として意を決して、凱風館のみなさんと一緒にハングルを基礎から学ぶことになりました。3週間に一度の授業ですので、進度は遅々としておりますけれど、11月の釜山では、なんとか地下鉄の駅表示くらいは読めるようになりました。ハングル書堂はこれからも続きます。来年は簡単な会話くらいできるようになりたいです。
(5)凱風館一九会発足。2016年2月に僕が初学修業を成就してから、次々と門人たちが初学に挑戦。清恵さん・多永さん・米山くん・中西くん・篠原さん・鯉ちゃん・薫子さん・福井さん・川原田青年・蓬郷くん・馬越くん・はっしー・里奈ちゃん・福丸さんと続きました。会員番号は学生時代に初学を成就していた春ちゃんが1番、僕が2番です。来年4月にはふじことたかみーが続いて18人に達する予定です。
一九会をみなさんにお薦めしているのは、その独特の空気を経験して欲しいからです。一九会は大正年間に東大のボート部の学生を中心にして小倉鉄樹先生を招いて始まった道場です。そのせいで、集いに行くと分かりますが、「大正時代の大学生たちのエートス」が色濃く残っています。そんなものがまだ空間に残留臭気として残っているような場所は日本国内に今いったいくつあるでしょう。そのルールは「誰も命令しない。誰も要求しない。誰も査定しない」ということです。道場の運営のみならず、日常の起居においてどうふるまうべきかが会員たちの自発性に委ねられている。行のときの任務分担だけでなく、配膳や掃除にしても、誰も何も指示しません。全員が黙って自分の判断に従って行う。ここでは会員たち全員を「大人」として遇するということが規範化しています。
今でも新兵の訓練や自己啓発セミナーは「参加者を幼児として扱い。その自我を解体することで再生させる」というプロセスをたどります。それも確かに短期的に「殻を破る」という目的については効果的でしょうけれど、そういう仕組みが日本社会において支配的になったのはおそらく陸軍経由で、それも昭和以降のことだと思います。多くの人が「日本の伝統的な教育システム」なるものを、新兵を古参兵が殴り倒し、苛め抜く陸軍内務班をモデルに考えていて、それに基づいてクラブ活動や社員研修を行っていますけれど、それ以前の「大正デモクラシー」の時代には、それとはまったく違う、個人の自律と主体性に基づいた修行組織が存在して、たしかに機能していた。そのような忘れられた「伝統」がかつて日本に存在したことを一九会は教えてくれます。
(6)2017年もさまざまな凱風館行事が行われました。凱風館を定期的に訪れて講習会をしてくださっているのは、甲野善紀、光岡英稔、守伸二郎、岡田慎一郎、小関勲、三好祐司の諸先生です。諸先生がたのご尽力に心からお礼を申し上げます。
(7)凱風館セミナー、凱風館寄席は2017年も活発な活動が行われました。おいで頂きましたのは、森田真生、森永一衣(初コンサート)、安田登、鶴沢寛也、竹本越孝、山村若静紀、玉川奈々福の諸兄諸姉。
有田さんと青山さんが肝いりのMTK(もっと玉川奈々福を関西に呼ぶ会)の会員がついに100名に近づき、繁昌亭と凱風館を拠点に「奈々福ムーブメント」が形成されつつあります。すごい。今年もたくさんの方のご来館をお待ちしております。
(8)色々な人が凱風館に来ました。多いのは地方の若い人たち(子どもたちも)。地方再生と教育共同体についてのアイディアを求めておいでになるようです。朴東爕が引率の韓国からの「日本の教育現場を見る遠足」も17年は二度、約50人が凱風館においでになりました。これは定例化したようで、今年も1月においでになります。
(9)凱風館からのスピンオフが際立ちました。春ちゃんの高砂道場・東沢君の青楓会・うっきーの芦屋合気会では毎年演武会・講習会をしてきましたが、それに加えて、今年は篠原さんのささの葉合気会が5周年を迎えて、最初の講習会が行われました。年末には三戸岡さんがご自身のクリニックに「風韻書屋」という道場を作りました(設計は光嶋君ですので凱風館とよく似た雰囲気です)。合気道の輪がどんどん広がってゆきます。
(10)それくらいでしょうか。個人的には身体の各部がちょっとずつ不可逆的に衰えていっている感じはします。でも、師匠が88歳でばりばり稽古しているのに、67歳の僕が弱音を吐くわけにはゆきません。
足腰が立つ間はしっかり稽古します。そして、足腰が立たなくなっても、まだ謡と禊は畳を這ってでもできます。こういう「足腰立たなくなってもできること」を早めに身につけておくのも老後の備えです。若い人は拳拳服膺するようにね。
(2018-01-01 20:02)