Japan Times の記事から「日本の厄介な歴史修正主義者たち」

2015-04-15 mercredi

海外メディアは連日安倍政権の歴史修正主義と国際的孤立について報道している。
ドイツの新聞に対してフランクフルト総領事が「親中国プロパガンダン」と抗議したことが、世界のジャーナリストたちに与えた衝撃を日本の外務省も日本のメディアも過小評価しているのではないか。
日本では「政治的主人たち」(political masters)に外交官もジャーナリストも学者も無批判に屈従しているのが、外から見るとどれほど異様な風景なのか、気づいていないのは日本人だけである。

日本の厄介な歴史修正主義者たち(Japan Times, 14 April)
by Hugh Cortazzi(1980-84 英国駐日大使)

日本の右翼政治家たちは海外メディアの報道を意に介さないでいる。彼らが外国人の感情に対する配慮に乏しいのは、外国人を蔑んでいるからである。
右翼政治家たちは日本をすべての面で称讃しない外国人、日本の歴史の中に暗黒面が存在することを指摘する外国人を「反日」(Japan basher)、日本の敵とみなしている。このような態度は日本の国益と評価を損なうものである。
Frankfuter Allgemaine Zeitungの特派員が東京を離れる際に寄稿した記事を海外特派員協会のジャーナルの最近刊で読んで、私はつよいショックを受けた。この新聞は職業上私も知っているが、センセーショナルな物語を掲載したことはないし、つねに事実の裏付けを取っていることでドイツでは高い評価を受けているまっとうな新聞である。
この新聞の特派員が以前安倍政権の歴史修正主義に対して批判的な記事を書いたときに、フランクフルトの日本総領事が、おそらくは東京からの指示に従って、同紙の外信部のシニア・エディターを訪れ、記事に対する抗議を行った。
日本総領事は特派員の書いた記事が事実に反する証拠を示すことなく、この記事には金が「絡んでおり」、レポーターは中国行きのビザを手に入れるためにプロ中国的なプロパガンダを書いたとして記者と新聞を侮辱した。このような発言は単に不当であるのみならず、許すことのできないものである。
残念ながら、このケースは単独ではない。1月にはニューヨークの日本総領事がアメリカの評価の高い教育出版社であるMcGraw-Hillに対して、ふたりのアメリカ人学者が書いた「慰安婦」についての記述を削除するように要請した。出版社はこの要請を拒絶して、日本政府当局者に対して執筆者たちは事実を適切に確認していると答えた。
具体的に何人の「慰安婦」が日本帝国軍兵士のために奉仕することを強制されたのか数字を確定することは不可能だろう。だが、この忌まわしい営みが広く行われていたことについては無数の証言が存在する。売春を強要されたのは韓国人女性だけに限られない。
日本の歴史修正主義者たちは南京虐殺についても事実を受け入れることを拒絶している。この場合も、現段階では被害者の数を確定することはできない。しかし、日本人自身を含むさまざまなソースからの証言は日本軍兵士によって南京のみならず中国各地において無数の残虐な行為が行われたことを確証している。この事実を指摘する者はただ事実をそのまま述べているだけで、中国のプロパガンダに与しているわけではない。
私自身数ヶ月前に尖閣列島については論争が存在するという記事を書いた。北京の反民主主義的態度に対する私の反感は周知のはずだが、にもかかわらず、私もまた中国のプロパガンダを繰り返し、中国を利しているとしてはげしい罵倒を浴びた。
日本の学校の歴史教科書について、英国メディアはそれが南京虐殺と「慰安婦」問題を控えめに記述しているという事実を伝えるに止めた。イギリス人戦時捕虜と強制労働者が泰緬鉄道建設において何千人死んだか、シンガポールと香港で、日本人がジュネーブ協定にも日本人自身の道徳律にも違背して、どんなふるまいをしたのかについて日本の歴史教科書に何が書いてあるか(あるいは何が書かれていないか)について、われわれイギリス人はこれまでコメントしたことがない。怨恨の思いを甦らせることで戦後の日英関係を損なうこと望まなかったからである。だが、もし日本人が歴史的事実を希釈したり記録から削除したりしようとするなら、それは両国の関係を傷つけることにしかならない。
日本の歴史修正主義者によって標的とされた学者やジャーナリストたちは、当然ながら歴史修正主義者たちが歴史資料から消し去ろうとしている事実をさらに掘り下げ、そこに耳目を集めるように努めるだろう。日本の歴史修正主義者たちのふるまいは私にはナチやソ連のコミュニストが駆使したオーウェル的な「ダブルスピーク」や「二重思考」を思い起こさせる。
英国の知日派の人々は「アベノミクス」と国防問題に見通しについては意見がそれぞれ違うが、日本の歴史修正主義者を擁護する人はひとりもいない。
最近の曽野綾子によるアパルトヘイト擁護の論の愚劣さは英国の日本観察者に衝撃を与えた。日本ではこのような見解が真剣に受け止められ、活字になるということがわれわれにはほとんど信じがたいのである。安倍晋三首相がどうしてこのような意見の持ち主を教育政策のアドバイザーに任命することができたのか私たちには理解できない。
また、日本人の知的で教育もある人たちが『日本人論』家たちによって提出されている日本の独自性についての思想を流布しているのも、われわれ非日本人には理解しがたいことのひとつである。日本はたしかに独自な国だが、それを言えば世界中どこの国だってそれぞれに独自である。日本人は1億2千万人以上いる。全員が別の人間である。日本と日本人の性格についての一般化はせいぜい近似的なものにしかならない。
日本人論家たちは、歴史修正主義者と同じく、現実世界の外側にある泡の中で暮らしているように私には見える。明治時代の彼らの父祖たちと違って、彼らは日本の外にある世界をほんとうは知らない。彼らには現実の海外の友人がいない。彼らこそ経済的にも政治的にも急激にグローバル化している世界において日本がおのれの正当な地位を獲得するための努力を妨害しているのである。
バブル期において、ロンドンにはたくさんの日本人が行き来していた。だが、今では日本人の影は薄い。英国当局の学生に対する規制の厳しさも一因かもしれないが、やはり主な理由は日本人が海外に出かける気力を失っていることだろう。ロンドンに来る日本人たちはもう妻子を連れてこなくなった。子どもの教育や老いた親の介護が彼らに「単身赴任」を余儀なくさせているのだ。日本人ビジネスマンや外交官の中にはロンドン滞在を一種の一時的な苦役と見なしている人たちさえいる。
日本の外交官たちは彼らの政治的主人の要望を実行しなければならない。それゆえフランクフルトやニューヨークの総領事が本国からの指令に従って行動したということを私は理解している。しかし、それでも日本の外務省は外交官に指示を出す前に、まず彼らの政治的主人に対して、歴史的事実は恣意的に変更することはできないこと、ジャーナリストや学者に対する検閲は反対の効果をもたらしがちであることを理解させるべく努めることを私は希望するのである。