今年の十大ニュース
年末吉例の「今年の十大ニュース」の時間のタイムがやって参りました。
毎度あまり変わりのないニュースではありますが、「無音は息災のしるし」ですから、そのこと自体を言祝ぎたいと思います。
1 今年もたくさん本を出した。いや~、出した出した。すごい数ですよ。
単著は:『街場の共同体論』(潮出版社)、『街場の戦争論』(ミシマ社)、『内田樹の大市民講座』(朝日新聞出版)、『憲法の空語を充たすために』(かもがわ出版)。
対談・共著本:『竹と樹のマンガ文化論』(小学館、竹宮惠子先生との対談)、『一神教と国家』(集英社新書、中田考先生との対談)、『日本霊性論』(NHK出版、釈徹宗先生との共著)、『若者よマルクスを読もうII』(かもがわ出版、石川康宏先生との共著)、『日本の身体』(新潮社、多田宏先生ほかたくさんの方々との対談を収録)、『街場の憂国会議』(晶文社、平川克美、小田嶋隆、鷲田清一、中島岳志、孫崎享、高橋源一郎、想田和弘諸氏との共著)、『街場の五輪論』(朝日新聞出版、平川克美、小田嶋隆両氏との鼎談)、『医療につける薬』(筑摩選書、岩田健太郎、鷲田清一両氏との共著)、『ほんとうの仕事の作法』(ダ・ヴィンチブックス、名越康文、橋口いくよ両氏との鼎談)、『学校英語教育はなんのため』(ひつじ英語教育ブックレット、鳥飼久美子さんとの対談を収録)。
文庫化されたもの(ボーナストラックつき)は:『僕の住まい論』(新潮文庫)、『もう一度村上春樹にご用心』(文春文庫)、『呪いの時代』(新潮文庫)、『邪悪なものの鎮め方』(文春文庫)、『沈む日本を愛せますか』(文春文庫、高橋源一郎さん、渋谷陽一さんとの鼎談)、『街場のマンガ論』(小学館文庫)
締めて20冊。
このほかすでにゲラを渡しているのは安田登さんとの能楽対談本、鈴木邦男さんとの対談本、『聖地巡礼・熊野編』、鎌田東二さんのスピリチュアル講座に書いた「武道と芸能論」などなど。さすがに「来年はもう仕事はしないよお」と叫びたくなるのも当然ですよね。
2 今年も韓国語訳がいくつか出ました。『邪悪なものの鎮め方』『贈与と評価の経済学』(岡田斗司夫さんとの対談)『街場の共同体論』『ひとりでも生きられないのも芸のうち』『修業論』。
どういう基準での選書かよくわかんないですね。
この二三年、10冊くらい集中的に韓国語訳が出ています。でも、「どうして、ウチダ本がこれほど韓国で読まれているのか?」という疑問を持つ人は日本のメディアには一人もいないようで、ついに一度も取材が来ませんでした。
3 翻訳がらみでもう一つ。『日本辺境論』は昨年中国語に翻訳されて、かなり売れました。今年は中国共産党中央紀律委員会というところの指定する「党幹部が読むべき本」56冊リストに入れてもらいました。委員会の委員長は習近平主席。「習近平がお勧めしてくれた日本人の本」はこれ一冊だそうです。でも、「どうしてウチダ本は隣国で評価されるのか?」という疑問を持つ人は(以下同文)
4 出不精のウチダが珍しく海外に行きました。2月はバリ島でバカンス、6月に韓国で講演旅行(ソウルと大邱)、7月にマレーシア合気会創立20周年記念講習会・演武会&祝賀会、11月にイタリア合気会創建50周年記念講習会・演武会&祝賀会。マレーシアでは演武をさせていただき、ローマでは多田先生にいきなり演武と講習の担当を指名されてびっくりしました。各地でお世話くださったみなさん、ご指導たまわった先輩諸氏に心からお礼申し上げます。
5 1月4日に、福生での大瀧詠一さんのご葬儀に参列しました。細野晴臣、松本隆、鈴木茂、坂本龍一、伊藤銀次、鈴木雅之、佐野元春さんたちがいらしてました。坂本教授とはその前に何度か「特定秘密保護法」に反対する市民運動の立ち上げについてメールを交わしていたのですが、この日にはじめてお会いしてご挨拶をしました。さすがにピアニストですね、握手した手がとっても柔らかく、暖かでした。
この日から今日まで、カーラジオでは「アメリカンポップス伝」の全シリーズ20回をエンドレスで聴き続けています。大瀧さんの追悼の文章をいくつかの媒体に書きました。先日はNHKラジオでサエキけんぞうさんと大瀧さんの思い出を語り合いました(放送は12月30日19:00から)。
大瀧さんは僕が個人的に最大の影響を受けた同時代人だったと思います。あらためて師匠の偉大さを噛みしめる一年でした。
6 第一回凱風館寄席を開催。笑福亭たまさんに二席語っていただきました。前座の釈先生の小咄「アムステルダム」が絶品でした。西靖さんも出演予定でしたが、VOICEのリハーサルのため無念の欠席。たまさんにはぜひ来年もお出で頂きたいです。
それから、青山さん主宰の浪曲部がプロデュースする春野恵子さんの浪曲会。安田登さん、玉川奈々福さん、山本紗由さん、新井光子さんによるこわくない怪談「耳なし芳一」。
第一回凱風館シネマは纐纈あや監督をお招きして「ある精肉店のはなし」の上映会とアフタートーク。上映会のために暗幕とスクリーンをセットして、本格的な映画館仕様。本日(12月29日)が第二回凱風館シネマです。水ちゃんとこの劇団の舞台風景の上映と、ウチダの秘蔵映像を公開します。11月はヨーロッパ計算の旅から帰ったばかりの森田真生くんをお招きして、第一回凱風館「数学の演奏会」。
来年もいろいろな新しいイベント企画が目白押しです。
7 凱風館身体技法研究シリーズがほぼ定例化しました。甲野善紀先生の武術講習会、光岡英稔先生の武学と站樁の講習会、守伸二郎先生の意拳講習会、岡田慎一郎先生の介護技法講習会、高橋佳三先生の身体技法講習会とス道会。これだけ多様な「他芸」の講習会を開催している合気道専門道場はかなり例外的だと思います。
8 能『羽衣』のシテをつとめました(大阪能楽会館、6月1日)。一年半ほど頭は『羽衣』のことばかりでしたが、終わるとほんとうに「肩の荷をおろしたような」爽快な気分でした。
本番ではちょっと道順を間違えかけて「頭がまっしろ」になりましたが、安田登さんがワキ座からじっとみていてくれて動きをサポートしてくれました。ワキというのがあれほど頼りになるものだとは能のシテを舞うまで知りませんでした。
ものすごく緊張しているはずなのですが、面のわずかな目の隙間から見所がよく見えるんです。「あ、タ○ミーが居眠りしてる・・・」とか。
9 スキーにちょっと開眼。ス道会での高橋佳三さんの講習で薄目が開いて、丸山貞治さんの白馬山楽荘での「スパルタンスキー教室」で半眼開眼。極楽スキーでもいい感じで滑ることができました。来年も、ス道会・スパルタン・極楽とスキー三連続。スキー道にもさらに精進いたします。
10 大学の合気道部、杖道会に新入部員がたくさん入ってきてくれました。合気道部はなんと部員数が20名を超えました。いったい何が起きているのでしょう? 若い人たちの地方回帰・帰農志向が目立ってきましたが、「身体を取り戻す」ことの緊急性に日本人が気づき始めたのだとしたら、うれしい徴候だと思います。
以上、めずらしく10個集まりました。「個人的にしみじみした話」が少なくて、「公共的な活動報告」が増えてきているのは、僕の日常生活から「プライベート」な要素がだんだん減っていって、生活自体が「パブリック」なものになってきているからでしょう(今日も上映会の仕込みで、昼から書斎の机の横を人々がぞろぞろ歩いています)。
年を取るというのは、どうも「私的」なものが逓減していって、生活の隅々までが「公共化」してゆくプロセスなのかも知れません。
考えてみたら、自分の家を公共的な空間に造り替えて人々の出入りを自由にするばかりか、自分の頭の中身を活字にしてじゃんじゃん公開し、自分の身体の仕組みや働きを稽古で開示しているわけですから、少年の頃に比べると「自分という人間の成り立ち」の開示度は何十倍にも増えている。
年を取るとどんどん「自分がなくなる」。
「自分のもの」だと思っていたものが実はほとんど「他者から贈与されたもの」それゆえ「他者と共有されるべきもの」であることに気づいて、「なんだ、『自分だけのもの』なんて、この世にないんじゃん」という涼しい諦観に至る。そういうことなんでしょうか。まだ年の取り方が足りないので、よくわかりませんけど。
みなさんもどうぞよいお年をお迎え下さい。
(2014-12-29 13:25)