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特定秘密保護法案について(つづき)

昨日のブログで、特定秘密保護法について私はこう書いた。
「安倍政権の狡猾さは、この特定秘密保護法が『果されなかった改憲事業』の事実上の『敗者復活戦』でありながら、アメリカのつけた『中国韓国を刺激するな』という注文については、これをクリアーしていることにある。(・・・)まことに気鬱なことであるが、日本の民主化度を『東アジアの他の国レベルまで下げる』ことは世界的に歓迎されこそすれ、外交的緊張を高める可能性はないのである。」
これについて、池田香代子さんから「ニューヨークタイムズが法案についての批判記事を掲載していました」というご教示を頂いた。
さっそく読んでみる。
NYTは10月30日の社説で「日本の反自由主義的な秘密保護法案」(Japan’s illiberal secrecy law)という記事が掲載されていた。illiberal は「リベラルでない」という政治的な意味の他に「狭量な、教養のない、下品な」という人格の瑕疵についても用いられるきわめて否定的な形容詞である。
タイトルは4月の同紙が掲げたJapan’s unnecessary nationalism (日本の不要なナショナリズム)と同形的であり、文体もロジックも共通点が多いので、おそらく同紙の日本担当記者によるものであろう。
いずれの社説も安倍政権が時代を逆行するような強権的で好戦的な国家を作り出そうとすることを批判しているのだが、その論拠は、一つにはリベラル派のデモクラシー擁護の立場から、一つにはアメリカの西太平洋戦略への妨害要因として批判するという「二正面」的なものである。
とりあえず全文を読んで頂こう。

「日本政府は国民の知る権利を冒す秘密保護法案の制定をめざしている。この法律はすべての政府省庁に防衛、外交、防諜、対テロにかかわる情報を国家機密に指定する権限を賦与するもののだが、秘密の指定要件についてのガイドラインが存在しない。この定義の欠如は政府があらゆる不都合な情報を秘密指定できるということを意味している。
提案された法案によると、機密を漏洩した国家公務員は10年以下の懲役刑を受ける。このような規定があれば、公務員は秘密公開のリスクを取るよりは文書を秘密に区分するようになるだろう。
現在まで、情報を“防衛機密”に指定できる権限を持っていたのは防衛省のみであるが、その記録は底なしの闇に消えている。2006年から11年にかけて防衛省が秘密指定した文書は55000あるが、そのうち34000が文書ごとに定められた非公開期間の終了後に廃棄されている。情報公開された文書はただ一件だけである。
新法案はこの非公開期間を無限に延長することを可能にするものである。そればかりか、国会議員との秘密情報の共有についての明確な規定がないため、政府の説明責任はいっそう限定的なものになる。
法律はさらに「無根拠」(invalid)で「不当な」(wrongful)な方法で情報収集を行ったジャーナリストに対しても5年以下の懲役を科すとしている。このような脅迫によって政府の実体は一層不明瞭なものとなるだろう。
日本の新聞はジャーナリストと公務員の間のコミュニケーションが著しく阻害されることを懸念しており、世論調査は国民がこの法律とその適用範囲に対して懐疑的であることを示しているが、安倍晋三首相はこの法律の迅速な制定を切望している。
安倍氏はアメリカ式のNSC(国家安全会議)のようなものを設立したがっているのであるが、これはワシントンは日本が十分な情報管理が果たせないのであればこれ以上の情報共有はできないということを通告したためである。
安倍氏が提案している安全会議の6部局のうちの一つは中国と北朝鮮を管轄し、他の部局は同盟国その他の国を管轄する。
この法案制定の動きは安倍政府が中国に対して示している対立姿勢と政権のタカ派的外交政策を反映しているが、法律は市民の自由を侵害しかねないものであり、東アジアにおける日本に対する不信をいや増すことになるであろう。」

書かれている内容は日本の新聞が報道していることとほとんど変わらない。
問題はこれがNYTの社説だということである。
4月の記事がそうであったように、NYTの安倍政権の政策批判はワシントンの意向を迂回的にではあるが示している。
前回の社説が出たあと、わずか2週間前に「村山談話の見直し」を高らかに宣言した首相は「村山談話の継承」への180度の方向転換した。
この「食言」の政治的責任を問う声は日本のメディアからはついに聴かれなかった。
アメリカの一喝で日本政府の外交方針が一夜にして逆転するという事実(つまり、日本がアメリカの衛星国であり従属国であるという事実)を日本の政治家も官僚もメディアも決して認めない。
いずれにしても、NYTの記事はホワイトハウスからのひとつのシグナルとして解読されねばならないということである。
記事そのものにそれだけの影響力があるということではなく、この記事がワシントンにおける「日本に対するそのつどのドミナントな判断」を伝えているからである。
この記事がこれからあとの安倍政府の動向にどう影響するのか、今の段階ではまだわからない。
昨日書いたように、改憲や談話見直しに比べると、「中韓を刺激しない」という点では特定秘密保護法案はアメリカの要請をクリアーしている。
「アメリカに迷惑はかけませんから」とこのまま一気にごり押しするか、アメリカとの情報共有体制を整備するための法案に当のアメリカからクレームがついたのは想定外だったからちょっと様子を見ようか、政権内部では今そういう相談をしているはずである。
まことに切ないことではあるが、私は「アメリカのクレームに屈して」政府がこの愚劣な法案の成立を断念することを願っている。
そのようにして、日本人は「アメリカの裁定に従うことが、日本にとっての最適解である」という信憑を刷り込まれて行く。
安倍首相の真意が奈辺にあるか私には忖度のしようがないが、彼が与えられたすべての機会を駆使して「アメリカへの完全従属」へと日本人を押しやるマヌーヴァーに成功していることは、わが身を省みても事実である。

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2013年11月09日 09:56 に投稿されたエントリーのページです。

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