一昨日の『ル・モンド』の記事を訳してみた。
これが辞任問題についてのフランスの新聞のもっとも新しい報道である。左翼紙『リベラシオン』にはこの問題についての言及はなかった(興味ないのね)
解説部分を訳す。
不信任案否決によって菅直人の政治的延命は果たされたが、この試練によって政権基盤はいっそう脆いものとなった。
3・11以前にすでに不人気であった菅は原発事故処理、10万人におよぶ被災者のための仮設住宅建設の遅れについて、さらに反対派によれば選挙公約の否定についてきびしい批判を受けていた。支持率は20%を切っている。
ぎりぎりの局面で任期前に辞任すると約束したことで民主党内の反対派が不信任案に投票することは阻止したものの、この誓言によって彼の立場はいっそう弱いものとなった。
「震災対応における私の役割がはっきりしたら、私は責任をより若い世代に手渡すつもりである」"Une fois que j'aurai assumé mon rôle dans la gestion du désastre, je transmettrai mes responsabilités à une génération plus jeune",と彼は採決の前に宣言した。彼の前任者鳩山由紀夫によれば、菅は秋に辞任すると約束したとされる。
もう一つ首相を支える要素がある。それは1945年以来もっとも深刻な災害に国が遭遇しているときに、議員たちが政治的なゲームに夢中になっていることを非難する世論である。
メディアはこの憤慨を伝えている。「河を渡っているときには馬を乗り換えない」と朝日新聞はその社説に書いて、政治家たちにこんな「つぶし合い」にかまけている暇があったら被災地に行けと命じている。(記事はここまで。)
興味深い点がいくつかある。
実際に口にしたのは「震災に一定のめどがついた段階、私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代の皆さんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい」というものである。
「震災に一定のめどがついた段階、私がやるべき一定の役割が果たせた段階」という日本語を『ル・モンド』の東京特派員はune fois que j’aurai assumé mon rôle と訳した。私はそれを「震災対応における私の役割がはっきりしたら」と訳した。
「めどがついた」という日本語独特の動詞の訳語としてフランス人はassumer を選んだ。
assumer は「果たす」という意味ではない(「果たす」ならaccomplir とかremplir そういう完了的なニュアンスを持つ動詞がある)。
assumer は「引き受ける、負う、受け止める、わがものとする」ということである。
assumer la direction d’un service 「ある部局の指揮を執る」とかassumer le risque de l’investissment 「投資のリスクを負う」とかいうときに使う。
つまり、このフランス人は菅総理の使った「めど」という語を「震災対応において総理大臣が何をすればいいかが明らかになった時点」と理解したのである。
だからこの訳語には二重の皮肉が込められているというべきだろう。
それは、「震災対策として総理大臣が何をすればいいかがわかったところで、(まだ何もしていなくても)総理は辞めるつもりでいる」という解釈をしたことと、「総理大臣が何をすればいいかを総理大臣はまだ知らない」という現状認識を示したことである。
日本の報道では鳩山さんは菅総理の辞任を「六月末」というふうに理解していたという点では一致しているので、「秋」とあるのは、特派員の勘違いだろう。
それにしても、この「めど」の解釈は味わい深い。
(2011-06-04 11:12)