高橋源一郎さん渋谷陽一さんと乃木坂でイタリアンを食べつつ小沢一郎について語る

2010-03-04 jeudi

早起きして、何通か手紙を書き、メールに返信し、締切をすぎた原稿を必死で書き(こればっか)、朝ごはんをかき込んで、銀行へ。
土地の登記をするのである。
そう、私はついに道場用地を買ってしまったのである。
JRの駅の北側、85坪。
「私が買った」というより、「内田家のみなさま」のご支援により「たなぼた」的に手に入ったという方が正しいのであるが、それも私が常日頃から「道場が欲しいなあ」と神経症的につぶやいていたのを、母や兄が憐れに思って、「そこまで言うなら、望みをかなえてやろう」ということになったのである。
お母さん、お兄さん、ありがとう。
道場の本体の方は私の責任で建てなければならないのであるが、土地購入に貯金のほとんどをはたいてしまったので、これからまたこつこつ貯めないといけない。
でも、多田塾甲南合気会の会員たちは餌を、待つひな鳥のように口を開いて「どーじょーどーじょー」とさえずっているので、できるだけ早く建物も手配したい。
というわけで銀行で登記のついでに「道場建設費貸してください」と支店長に頼み込む。
以前にヒラマ支店長に「2億円貸して」といったときは呵々大笑されて相手にしてもらえなかったけど、こんどはなんとかなりそうである。
それにしても、道場がほんとうにできるとは夢のようである。
何度も書いたことだが、多田先生から「強く念じたことは実現する」と教えていただいた。
現に先生はそうやって月窓寺道場を作られた。
私も師の言葉を忘れず、「道場を建てるぞ。道場を建てるぞ」と強く念じていたら、いつのまにか夢が実現しそうになってきた。
言葉の現実変成力を若い人は侮りがちであるが、言葉ほど恐ろしいものはない。
「どうせオレなんか・・・」というような自虐の言葉はまっすぐにその人を「どうせ」的状況に繋縛してしまうのである。
自分の状況を否定的に記述することは「自分に呪いをかける」ことである。
自分にかけた呪いを祓うことはむずかしい。
多田先生がおっしゃった「強く念じる」には「悪いこと」ももちろん含まれる。
「悪いこと」を強く念じても、それは高い確率で実現する(現に、私は「悪いこと」を強く念じて実現させたことが何度かある)。
「悪いこと」を実現するのは、「よいこと」を実現させるよりはるかに容易である、と多田先生はおっしゃっていた。
力の弱い人間が手軽な全能感や達成感を求めると、必ず破壊をめざすようになる。破壊は建設よりずっと容易だからである。
「よいこと」を強く念じるというのは、言うほど簡単なことではないのである。

それから大学へ。
大学院委員会でふたつ「いいこと」がある(ほんとは「みっつ」)。
委員会で「いいこと」があって、にこにこしてしまうというのは珍しいことである。
タクシーで山を下りて、新大阪から新幹線で東京へ。
車内で小バイオをつかって仕事。
東京駅からタクシーで乃木坂。おしゃれなイタリアン・レストラン。
乃木坂なんて来るの40年ぶりくらい。
三月に一度やっている『Sight』の高橋源一郎・渋谷陽一との鼎談。
今回で4回目(ちょうど一年)。
これをまとめて単行本にするのだそうである。
全部政治の話
高橋さんとぼくがひたすら政治の話「だけ」しているというのは、ずいぶんと奇妙な企画である。
たしかにぼくたちはふたりとも「元・政治少年」であるから、政治思想史的なこと多少わかるけれども、リアルポリティークについては、ほとんど何も知らない。
だから、政治評論の専門家との差別化をはかるなら、「評論家が絶対に言いそうもないこと」だけを選択的にしゃべるしかない。
昨日は「小沢一郎論」だった。
あまり面白そうな論件ではない。
どうすれば面白くなるのか・・・こういうときはまず高橋さんに丸投げ。
高橋さんは、なんとこの鼎談のために、小沢一郎の著書を5冊読んで研究してきたのである。
政治家について語るときに、そのひとの書いた本を読んでくる、というのがいかにも高橋源一郎である。
文は人なり。
本読めばわかる、というのが高橋さんの文学者的確信である。
すごいね。
というわけで、鼎談は小沢一郎の「文体分析」から始まったのである。
結論はツイッターに高橋さんもちょっと書いているとおり、「小沢一郎は日本のナロードニキであり、吉本隆明のアヴァターである」という驚天動地のもの。
小沢さんて「大衆の原像を繰り込みつつ、あらゆる擬制に抗う永久革命者」なんだよねという話に落ち着く。
話している当人たちが思いがけないオチにびっくり。
どうしてそういうことになるのか、その理路は『Sight』でおたしかめください。
タイトルを考えておいてねと渋谷さんに言われたので、考えました。
「ゲンちゃんウッチーのにこにこ床屋政談」
あまりにストレートかしら。
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