池部良週間始まる、その他のニュース

2008-07-15 mardi

昨日の重大ニュース

「シャトーマルゴーで二日酔い」事件。前日、斉藤言子先生宅で石黒晶先生といっしょにワインをたくさん飲んだ。シャトーマルゴー(釈先生からお中元でいただきました。美味!)から始まって、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコと飲み続け、ブルゴーニュの赤に行く頃には全員はらほろひれ状態。なんとか家には最終でたどりついたけれど、朝起きるとひさしぶりのワイン二日酔い。

「二日酔いなのに原稿を書く」事件。例によって締め切りを忘れていた。なんとか夕刻までに酔いをさまし、学部長会が終わってから家に飛んで帰って、「私たちにとっての吉本隆明」と「秋葉原事件について」二本原稿を書き飛ばす。「秋葉原事件」について某書店から寄稿を頼まれてなんとなく気が乗らなくて断ったと一昨日書いたけれど、「なんとなく気が乗らなかった」理由は今にして思えば「他の出版社から同じ趣旨の原稿依頼を受けていたから」であった(それくらい思い出せよ)。

「トーブさんからメール」事件。ラリー・トーブさんはいまイスラエルにいる。そのトーブさんからヘブライ大学の図書館の司書の人から『私家版ユダヤ文化論』を入れたいという申し出を受けたので、送って下さいというメールが来た。もちろんお送りするけれど、誰が読むんだろう。日本語の本なんですけど。
宛先住所を聞いたら、モルデカイ・ルリアさん気付けであった。
モルデカイ・ルリア。
すごい。
日本風に言ったら「義経・空海」みたいな名前である。

「『こんな日本でよかったね』チャートイン」事件。都市部では週末に発売になった『こんたね』(略し方、これでいいかな)は amazon では20位から40位のあいだをうろうろ。bk1の社会・政治・時事部門では二日続けて1位。東京のタカハタさんから写メールで三省堂本店で12面平積みでしたという報告が来る。バジリコの安藤さんは「もしかして10万部くらい行くかも・・・」と皮算用の電卓を叩いている。

「二日酔いなのに本を書いちゃった」事件。『こんたね』が売れ行き好調と聴いて、すっかりいい気分になったので、懸案のゲラを片付けて、次の本の原稿を送り出す。
などということを書くと「どうしてうちの本の仕事を先にしないんですか!」と激怒する編集者たち(○ジモト○ミさんを筆頭に)がおられるであろう。ごめんねごめんね。

「池部良週間」事件。関川夏央さんとビールを飲みながら、『青い山脈』の話をしているうちに、日本戦後史において「池部良」が象徴的に果たしていた役割の重要性という話になり、『月刊現代』の次のゲストに池部さんをお訪ねしようかという話になった。
池部さんは『青い山脈』で「民主ニッポン」を体現する旧制高校生を演じ、『乾いた花』で心に傷を負った現代やくざを演じ、『昭和残侠伝・唐獅子牡丹』で風間重吉という伝説的な役で60年代東映映画のイコンとなった。
池部さんの背景にあるのは戦争体験である。『ハルマヘラ・メモリー』は北支から南方ミンダナオに転進途中でアメリカの潜水艦の魚雷攻撃を受けて沈没した池部少尉が生き残った部下たちを引き連れて、ハルマヘラ島で米軍の侵攻を待つ・・・という「映画みたいな話」である。予備士官学校出身の池部少尉の「市ヶ谷」(陸士)出身の将校たちの愚鈍さと暴力性に対する怒りは、クールでユーモラスな文体の行間からにじみ出してくる。
小津安二郎監督の『秋刀魚の味』の中で、加東大介演じる下士官が、バーのカウンターで「軍艦マーチ」を聴きながら、かつての駆逐艦長である笠智衆に「あの戦争に勝っていたら、オレたちはいまごろニューヨークですよ、艦長」と言う場面がある。それに笠智衆が「いや、負けてよかったじゃないか」と答える。それを聴いた加東大介が「そうですかね。そうだな。バカな奴らが威張らなくなっただけでも、負けてよかったか」とつぶやく。
「バカな奴ら」に対する怒りはこの世代においては必ずしも「告発」的な語法では語られない。その屈託は『ハルマヘラ・メモリー』を読むとよくわかる。
それでも彼らに自分と部下の命を預け、彼らとともに生き死にする以外に選択肢がない。戦後も池部さんはそのときに選択した自己抑制に「理あり」とする態度を貫いたのである。
池部良の風間重吉には、この「陸士出身の愚鈍な軍人の指揮下で無駄死にすることへの諦念と抵抗」の情念に近いものが漂っていたように思われる。
というわけでここ数日は池部良の本を集中的に読み、出演映画を集中的に見ている。

その他
「グリーンカレー食べ損ね、かわりにカレー味春巻き食べちゃった」事件。
「仏文の先生が学部改組で学生課職員にされられた大学があるんですって」事件。
「『どうして私にだけ連絡メールが届かないんですか』と怒る学生三人」事件。
などが頻発。二日酔いの半日(昼まで寝てた)にしては事件の多い一日であった。
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