久しぶりにのんびりした日曜日

2006-12-18 lundi

「原稿を落とす」のと「ダブルブッキングをかます」というのが私の二大トラウマである。
ダブルブッキングは前に一度やって、ほんとうに「いたたまれない」気分になったので、それ以後注意しているので二度目はまだない。
しかし、「原稿を落とす」可能性はつねに遍在する。
土曜の朝、にこやかにメールをチェックしていたら、「金曜日が締め切りの原稿がまだ届いていませんが・・・」というメールが来ていた。
げ。
『論座』に教育論を書くことになっていたのである。
それも8000字。
8000字といえば、400字詰め20枚。
卒論の中間発表の紙数ではないか。
土曜は楽しい合気道のお稽古と「武術的立場」の最終回ならびに打ち上げ宴会である。
原稿書いている暇はない。
「月曜にしてください」と言い訳メールをして、日曜の早朝からがりがりと書き出す。
ものが教育論であるから、言いたいことはいくらでもある。
3時間ほど身じろぎもしないでキーボードを叩き続ける。
昼過ぎにクリアー。
やれやれ。
予定通りに床屋に行く。
床屋はいつもの芦屋川の「スミレ」。
ここにはもう16年通っている。
日曜午後の床屋というのは床屋のハイシーズンであるはずだが、客がいないので、待たずに出来る。
あららっきい。
「今日は暇ですね」と訊くと「このとこ、いつもこんなですよ」と哀しげな答えが返ってくる。
そ、そうなの。
どうしてなんでしょうね。
どうやら芦屋川駅北側では地域男性の高齢化の進行に伴い、「発毛速度」に有意な低減傾向が現れてきたようである。
なるほど。
そういえば、スミレでも小学生や中学生が頭を刈っている風景に出会うことが少なくなった。
子ども自体が減少しているのである。
芦屋市は「高齢化」という点ではおそらく日本屈指の街であり、日本社会の25年後くらいを先取りした風景をここでは見ることができる。
私はすでに知命を過ぎること久しく、還暦をまぢかにする年齢であるが、マンションのエレベーターの中で隣家のみなさんに話しかけられるときの呼称は「お兄ちゃん」である。
私が「お兄ちゃん」で通る年齢構成の街なのである、芦屋は。
わたし的には「お兄ちゃん」でぜんぜんオッケーなのであるが、芦屋市的にはそれでよろしいのであろうか。
悩みつつ帰宅して、今度は講談社のPR詩「本」のために3200字の原稿を書き飛ばす。
これは講談社から来年はじめに出る『下流志向-学びからの逃走・労働からの逃走』の販促エッセイ。
これも教育論であるから、また教育についてがりがり書く。
午後5時に書き終わり、元町へお買い物。
ルミナリエ客は一時期ほどの狂躁的な人出ではなくなったが、その人並みを逃れて元町の大丸へ。
買い物に出る暇が年に2回くらいしかないので、半期分まとめ買いをする。
シャツを3枚と今年はよく働いたということで自分にご褒美の Aquascutum のコート。
「一生懸命働いた自分をほめてやりたい」というワーディングは私には説得力のあるものである。
私は子どもの頃からお金を使わないで貯めてばかりいて、ときどきたまったお小遣いの残額を眺めてにこにこしているような無害な少年であったが、あるときカメラの中に隠しておいた数千円のへそくりがなくなっていることに気がついた。
げっ。
ま、まさか。
お兄ちゃん、ぼくのお金取ったでしょ!という詰問に兄上は少しも動ぜずこう答えた。

「ああ、たしかにお前の隠していた金を取ったのはこの私である。だが、タツルよ。金というのは市場に投ぜられることでその本義を全うするものであって死蔵するべきものではない。私は貨幣の本能に従ってそれを市場に投じる義務をお前に代わって引き受けてあげたのだよ。感謝されこそすれ、ドロボー呼ばわりされる筋はない!」

私はこの兄上の完璧な論理の前に静かに頭を垂れたのである(よく考えるとどこかおかしいような気もするのであるが、それから半世紀経ってもまだどこがおかしいのかよくわからない)。
ともあれ、貨幣の本性は運動態にあり、退蔵すべきものではないということを小学校低学年のときに教示してくださった兄の厚恩にはいまだに深い感謝の気持ちを忘れないのである。

お買い物のあとは元町香港茶楼にて飲茶。
帰宅して007全巻制覇の続き。
『ダイ・アナザーデイ』を終えて、次は『ダイヤモンドは永遠に』。
Die another day の日本語タイトルは『死ぬのはいつかだ!』に決定。
Diamonds are forever は他にタイトルのつけようがないですね。
007全巻制覇の旅をしているとブログに書いたら、ゑびす屋さん経由でソニー・ピクチャーズの佐々木さんから「007全巻制覇の旅、ご苦労様です!」というコメントとともに007の新作『カジノ・ロワイヤル』の招待券が届いた。
なんでもブログには書いておくものである。
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