一瞬の夏休み

2007-08-30 jeudi

ただいま東京へ向かう新幹線車中。
ひさしぶりにパソコンのディスプレイに向かう。
土曜日は南港で大阪府教組での講演。帰ってから三宮に本を買いに行く。夜はまとめ買いした『スパイ大作戦』シリーズを見る。
監督はブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J・J・エイブラムス。
監督の選択を見る限り、プロデューサーとしてのトム・クルーズの手腕はなかなかのものである。
このシリーズの魅力はラロ・シフリンのテーマ音楽によって25%くらい底上げされている。
あのテーマを聴くと、私たちの世代はもう「わくわく」感を抑制することができぬのである。

日曜は下川正謡会の歌仙会。
来年の大会のための準備の最初の会である。
私は来年『菊慈童』の舞囃子なので、その仕舞。それと素謡『弱法師』のワキ。
仕舞は短いし、ワキの謡はむずかしい節回しのものではないので、わりと気楽である。
それ以外に地謡がたくさんついている。『蝉丸』、『遊行柳』、『俊寛』などなど。
10時にはじまって、5時ころに終わる。
ビールで乾杯してから、ぱたぱたと家に戻る。
画伯、青山さん、平尾さん、かんちきくんがもう来ている。
御影に引っ越して最初の甲南麻雀連盟の例会である。
今回は浜松支部が来襲。第三次(もう第四次だったかな)の「浜寇」である。
最初の年は本部がぼろ負けして、スーさんが「また太ったころにむしりに来るぜ」と高笑いして帰ってゆく後姿を、本部会員一同悔し涙に泣き伏して見送ったのである。
緒戦を落としたものの、回を重ねるにつけて敵の手の内もわかってきて、それ以後は順調にリベンジを果たして、今回の交流戦も本部の圧勝であった。
私も着実に点棒をゲットして、ようやく例会の通算勝率を3割に乗せる。
やれやれ。
通算戦績は画伯と弱雀小僧の一騎打ち状態である。
弱雀ジローが年間王座を狙うというようなことはあってよいはずもないので、秋風の吹くころにはまたなつかしい「あ〜れ〜」という泣き声が聞こえるようになるであろう。
翌日は浜松支部の諸君(スーさん、小野ちゃん、オーツボくん、ヨッシー、シンムラくん)と画伯と城崎温泉 “温泉麻雀” ツアーに出発。
画伯は大病をされて以来、美食を控え、美酒を禁ぜられ、運動のできぬ身となり、「唯一の楽しみは麻雀」という身の上であるので、こころみにお誘いすると快諾せられたのである。
私の BMW に画伯とスーさんを乗せて、中国道、播但道をびゅんと走って、わいわいおしゃべりしながら出石へ。
出石ではコヤタ先生ご姉妹のご案内で「甚兵衛」という名代の蕎麦屋を訪れる。
皿蕎麦17枚を食す。
美味である。
烏賊の一夜干しもさよりの干物も美味である。
ビールがのみたくなるが、まだ運転があるので、がまんする。
スーさんたちはドライバー一人を残して、はやくも宴会状態。
「甚兵衛」は大塚久雄先生の旧宅跡だそうである。
蕎麦で満腹した状態で、げっぷまじりに「そうか、マックス・ウェーバーか・・・」などとつぶやいてみるが、そのあとが続かない。
姉妹にお礼を申し上げてから城崎へ。
まずは外湯の御所の湯へ。
ここには前に三木屋に茂木健一郎さんと泊まったときに入ったお風呂である。
青空を見ながらのがらがらの露天風呂。
よい気分である。
でも、城崎の温泉は少し熱いので、あまりのんびりと入っていられない。
風呂上りにハーゲンダッツのクッキー&クリームを食べて、マッサージ機で腰をもんでもらって、からんころんと下駄を鳴らして通りを戻り、宇治アイスを食べ、部屋に戻って対戦スタート。
緒戦、いきなり画伯にドライブがかかって大勝(私はぼろ負け)。
どうも城崎と麻雀は相性が悪い。
夕食をはさんで、三戦してようやく一勝。トータルではマイナスだが、なんとか勝率3割はキープ。
内湯に入って、みなさんの打牌の音を聞きつつ爆睡。
夜半に雷鳴、雨。
朝起きてまたお風呂。
朝ごはんをしこたま食べて、コーヒーを飲んで、だらだらおしゃべりをする。
このチェックアウト前30分くらいの、だらけた状態でのおしゃべりというのが、なんだかいちばん楽しい。
とくにまとまった話をするという場面でもないので、みんな断片的なことをぽつぽつと話す。
「それは違うよ」と反論をしたり、「論拠を示せ」とか野暮なことを言う人間もいないので、話がぼんやりふわふわと空中を漂っている。
宴会のあと、帰りの電車を待つ駅のホームで、酔客同士が話しているような感じである。
「ああ、今日は愉快やった。札幌、いきとないなあ・・・。手紙くださいね。ほんまですよ・・・・・ああ、今日は愉快やった」
と宝田明が司葉子に話しかけるのはなんだったからしら。『小早川家の秋』だったかしら、『秋日和』かしら。
ああいう感じである。
こういうせりふをきっちりと脚本に書ける作家はもういなくなった。
吉田喜重が晩年の小津安二郎をと東京駅でみかけたことがあった。
ほろ酔いの小津は横須賀線を待ちながら「男純情の、愛の星の色」という灰田勝彦の歌のあたまのフレーズだけを延々と繰り返しつづけていて、さっぱり歌が先に進まないのであったと吉田は回想していた。
よい話である。
温泉旅館のチェックアウト待ちの30分というのは、このエンドレスの「男純情の・・・」みたいな感じがする。
城崎温泉のはずれで浜松の諸君と別れて、画伯と御影に戻る。
帰るとすぐに仕事の電話が3本かかってくる。
短い夏休みであった。
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